●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2017年1月号 ○
特   集
詩歌の国ニッポン~日本人と五七五
覚えておきたい古代詩歌から現代の名句まで
特   集
読者投稿欄選者競詠

圧倒的に充実した総勢29名の選者陣の競詠
特別作品30句
夏石番也、稲畑廣太郎
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、他
セレクション結社
「獺祭」本田攝子
俳句界NOW
小川軽舟「鷹」
甘口でコンニチハ!
田中泯(ダンサー)
クローズアップ
茨木和生「運河」主宰
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
河内静魚、山尾玉藻(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
白刃の銀箔散るや村芝居
京都 除門喜柊
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
耳朶の形に気づく良夜かな
神奈川 小泉由美子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
エプロンをつけて書初仁王立ち
兵庫 中西ちゑ子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
躓きし石に顔あり星月夜
北海道 榊原佐千子
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
酒蔵の杉玉匂ふ春の雪
東京  針ヶ谷里三
樋口一葉と言えば東京の本郷や下谷の街を思い浮かべる。駄菓子屋も子供たちが楽しみに集まってくる所である。小さな間口の駄菓子屋も奥はちょっと深い。その奥まで夕日がさし込んでいる。十一月二十三日頃の低く射す冬日、特に夕日の様子を描き、一葉を偲んでいるところが佳い。
時ならぬ産声ひそと月の包
静岡  宮田久常
西瓜の好きな人は多い。特に子ども達は大好きである。今、この子はその西瓜の写生をしている。夏休みの宿題かもしれない。そう思って見ていると、西瓜の影を描き始め、そこへ縞まで描き入れている。ほほ笑ましい光景である。
波郷の忌の夕日濃かりし小名木
東京  倉本尚彦
石田波郷は大正二年松山市に生まれ、昭和四十四年十一月二十一日、東京で亡くなった。胸を病み、終生病と闘っていた。東京の江東区に住んでいたから近くを流れている小名木川のほとり を散歩したに違いない。夕日影の濃い小名木川を見ながら、波郷忌を修しているところが佳い。
雑詠-稲畑廣太郎・選
その中に遊び心の鳥威
大阪  上田和生
秋稲が実っている場所で、時々大砲のような音が聞こえたりすることがある。最近では古くなったCDを稲の上に吊ったりしているのも一種の鳥威しであろう。人間と鳥の知恵比べは昔からあるが、人間の側からしてみると、そんな工夫も結構楽しいのかも知れない。明るい句である。
風に消えうすばかげろふ風となる
兵庫  竹内信子
幼虫が蟻地獄であることは御存知の通りであるが、その逞しい姿とは反対に成虫としてうすばかげろうになると何ともひ弱な印象になるのは、少し哀れにも感じてしまう。少しの風にもよろよろと吹かれて、寿命も短い。そんな短い一生を風と取り合わせて見事に写生している句である。
*今日の雲すべて見届け捨案山子群
群馬  小暮駿一郎
役を終えた案山子が一日中その田圃に寝かせられている。考えてみると、やはり人間の心理として、俯せより仰向けにされていることが多いのではないだろうか。動くことも出来ずに去来する雲を一日中眺めている様子に哀れを感じてしまうが、何かゆったりした時間が心地良い。
雑詠-今瀬剛一・選
夕暮が山より来たり桐一葉
埼玉  矢作水尾
情景がよく見えるところがいい。山間の里は山の影が村全体を覆うようにして暮れていくのである。「山より来たり」という表現がその暮れ際の様をよく捉えている。次第に暮れてゆく山村の一瞬を「桐一葉」によって定着させた。それだけに、この一語が鮮明に浮き立って感じられる。
銀やんまついと大河の風に乗る
福岡  矢野二十四
この作品もまた印象的である。真っ直ぐに飛んでいた「銀やんま」が川風を受け、勢いを増す。見上げる中空、その向こうには「大河」が広がっている。「ついと」という表現によって、「銀やんま」自体が勢いを増し、高度を変えたようにも思えて、より生き生きと感じられる。
天守閣近くなり来る帰省かな
和歌山 川口 修
帰省子になりきった表現が作品を強くしている。故郷は勿論城下町、「天守閣」は町のシンボルなのかもしれない。懐かしい天守閣が見えてくれば、まもなく故郷。「近くなり来る」という表現には万感の思いがある。「帰省かな」と言い放って故郷への情感を叫んでいるところも好い。
雑詠-大串章・選
啄木も賢治も遠し冬銀河
神奈川 尾崎秋明
石川啄木は明治十九年、宮澤賢治は同二十九年、共に岩手県に生まれ、県立盛岡中学に入学。しかし、啄木は中途退学して苦難の道を歩み、賢治は盛岡高等農林に進学し農学校の教諭に。二人の人生は大きく異なった。下五「冬銀河」は賢治の代表作『銀河鉄道の夜』を思い出させる。
八十の媼が子役敬老日
長崎  内野 悠
敬老の日には各地で慰安会や敬老会が行われる。地域の小学生が老人ホームを訪ねて一緒に歌を歌ったりすることもある。この句の場合は寸劇が行われているのだが、その「子役」が「八十の媼」とは驚きである。老女の子役には拍手喝采、多くの人々が生きる力を貰ったに違いない。
旅先に届く訃報や鳥渡る
鹿児島 米原淑子
悲しい句である。「鳥渡る」が微妙に効いている。こういう経験は多くの人々にあると思うが、私にも痛恨の一事がある。昭和五十七年八月二十一日、私は旅先で恩師大野林火の死を知った。同日通夜というので、家人に駅まで喪服を持ってこさせ、急いで林火宅へ駆け参じたのであった。
雑詠-大牧広・選
英霊の眠る海より台風来
兵庫  石原糸遊
台風の季節、はるか海の果てより台風がやってくる。太平洋戦争で戦死した兵士の数は数十万人。それぞれ家族や父母のことを思って死んでいったのである。その「英霊」の思いが風となって母国日本へと吹いてくる。
窓側へ椅子を移せば小鳥来る
千葉  塩野谷慎吾
何でもない表現のようだが、倖せな家庭が詠まれている。日の当たる窓側へ椅子を移し替えたとき、庭に小鳥が遊んでいることに気付く。さりげない幸福感が読者を暖かくする。
夜這星いまさら鈴木しづ子とや
福岡  川崎山日子
鈴木しづ子、という俳人は、戦後に特異な俳句を詠んで注目されたが、花火のようにあえなく消息不明となった。全身俳人という存在だった。季語がその生涯を述べている。まさに、敗戦後日本の俳人だった。
雑詠-角川春樹・選
星月夜がうがうと鳴る登り
埼玉  橋本遊行
陶磁器を焼成する場面であろう。登り窯には、夜通し火が入れられる。「星月夜」のもつロマンから、陶磁器に現れる窯変ようへんのことが連想された。中七のオノマトペも臨場感があり、効果的である。
聖堂のミニコンサート小鳥来る
千葉  上田久美子
「聖堂のミニコンサート」と「小鳥来る」という季語の取合せのよさが感じられた。鳥は、魂を運ぶものとされるが、掲句でも聖霊の祝福を表しているようである。
爽やかや胴着干さるる合宿所
東京  池上余思拾
学生の部活やサークルなどの合宿の風景であろう。「胴着」とあることから、武道や武術と推測される。いくつもの胴着が干されている景からは青春が匂いたち、清々しさを感じる。中七下五の着想と季語の取合せがいい。
雑詠-岸本マチ子・選
島の秋やんばるくひな走る走る
神奈川 井手浩堂
「やんばるくひな」はクイナの一種で、鳥のくせに飛べない。全長約三〇センチ程で沖縄北部の山原やんばるに棲んでいて、一九八一年新種の天然記念物として発表されている。なかなか美しい。よく車の被害にあうが、その走ること走ること。まさに「走る走る」である。それが武器なのだ。
虫の音の入れかはりたる秩父線
埼玉  波切虹洋
「秩父線」は、昔乗った事がある埼玉県西部のローカル線。たしかに秋になると鉦叩きや、馬追いだったり、鈴虫だったり、こおろぎなどが、賑やかに「入れかはりたる」面白さ。そんなローカル線の楽しさが今もある秩父線は素晴しい。
稲架かけるはんこたんなの目のやさし
山形  佐々木次雄
「はんこたんな」とは、山形・秋田方面で女性が農作業の時、日除けや虫除けのために、目を除く顔から頭部分を黒や紺の細長い布で覆うことをいう。その目差しの優しさに改めてふれた感激。きっと美人を思わせる目差しであったのであろう。
雑詠-古賀雪江・選
踏み込んで踝ぬらす白露かな
大分  森田里華
白露は二十四節気の一つ。此の頃には、夜の更けるとともに草は露を結び、翌朝には夥しい朝露が草木の葉から滴る。作者は山路に一歩踏み込んで足元を這い上る草を踏んだ。そして、その草の露をどっと浴びて裾を濡らしたのである。踝を濡らす程の激しい露に、山の晩秋を捉えた句。
畦道の行き止まりなり墓洗う
神奈川 野澤星彦
お彼岸や命日にも墓参りをするが、一般的に墓参りというと盆の近くにお墓の掃除をし、苔を掃き、水を打ち、供物を供えることである。畦道を行くと、その尽きたところに村の墓がある。作者は、都会からはるばる来て、久々の墓参に墓を洗って父母への思いを新たにしたことだろう。
看取して寝息確かむ夜長かな
兵庫  高橋純子
夜が長いのは冬至の頃であるが、夏の短夜の後なので秋の夜は実際よりめっきり長くなったと感じるのである。大分更けたと思って時計を見るとまだ宵の口だったりする。看取りの場では一層であろう。病人の寝息の正しさを確認して、さてこれから看取り人の長い夜が始まるのである。
雑詠-坂口緑志・選
明日嫁ぐ襟足を剃る良夜かな
愛知  山口 桃
嫁ぐ日を明日に娘の襟足を剃っている。剃っている作者は母であろうか。折りしも、窓の外には中秋の名月があたりを照らし出している。これまでの、様々な思い出が去来したことであろう。あんな事もあった、こんな事もあったと。映画の一シーンを観るような感動を覚える。
無言となりて出づる炎暑の無言館
茨城  國分貴博
無言館は、第二次世界大戦で亡くなった若き画学生を慰霊する目的で遺作を集めてできた長野県上田市にある美術館である。絵は無言であるが見る人に様々な事を語りかけてくる。そして無言となって美術館を出て来るという。無論、炎暑のためではない。深い思いに包まれているのだ。
小鳥来る角髪の王の眠る丘
福岡  矢動丸典弘
角髪みずらは上代の男子の髪型。聖徳太子の肖像で知られるが、角髪の埴輪は各地で出土している。その角髪を結っていた王の眠る古墳に小鳥が北国から渡って来た。小鳥たちにとっては、角髪の王が眠っているなどとは思いも寄らないだろうが、一冬を過ごすのに居心地の良い処なのだろう。
雑詠-佐藤麻績・選
曼珠沙華二十六使徒殉教す
愛媛  境 公二
日本にキリスト教が入り、豊臣秀吉の禁教令によって最初の殉教者として処刑された二十六人を指して二十六聖人という。一方、曼珠沙華は一本ずつ真っ直ぐに咲く花であり、炎の様な印象をもって訴えている様子が印象的である。
秋の蛇眼燃ゆるは飢ゑならむ
神奈川 三枝清司
秋も終りになると蛇も穴に入る。冬眠に際して飢えを意識し活発さは失せているのかとも思う。その様であれば眼には何か穏やかならざるものが宿っているはずだ。生きものとは、飢えとの闘いの中で生きていくのだ。
恩讐の洞門潜るとき秋思
福岡  浅川走帆
大分県にある青の洞門は、僧禅海が三十年を費やして開削したという。菊池寛の小説『恩讐の彼方に』で知られたが、数年前に訪ねた時は、時折小雨に降られた。所々トンネルに入ったり出でたりしながら確かにもの思う一ときであった。
雑詠-鈴木しげを・選
身に入むや母の手擦れの蚕屋日誌
三重  伊室美枝子
養蚕業が日本の産業を支えた時代がかつてあった。蚕を育てる部屋を蚕屋こやまたは飼屋という。蚕は脱皮を繰り返し繭を作る。桑の葉を摘んで食べさせる作業は昼夜を分かずきびしい労働である。母の残した日誌は作者にとってはまさにかけがえのない宝物。「身に入む」の季語が動かない。
新藁の乾しある道をたのしめり
大阪  西村千恵子
稲刈りの済んだ畦道であろうか。籾を扱いたあとの稲藁が干されている。藁の浅みどりに乾いた秋の日差しが注いでいる。この新鮮な香りは心が和む。作者の直截的な「たのしめり」の感情表現がここではよく生きている。新藁は神前の注連縄となる。清々しい一句である。
*茶碗浮く二百十日の洗
兵庫  井上徳一郎
生活感のある作。二百十日は厄日とされ、立春から数えて二百十日。九月一日ごろにあたる。台風による被害が稲にもたらすものは大である。掲句はそうしたことを奥に含ませながら普通に詠まれている。そこがいいと思う。上五の「茶碗浮く」が二百十日の平穏を象徴している。
雑詠-辻桃子・選
良夜にてペダルを漕げば浮くごとし
愛知  石井雅之
中秋の名月の夜。作者はあまねく月光に照らされた地の上を自転車に乗っている。そのとき自転車ごと宙に浮いているように感じたという。あまりにも月の光が明るいためだ。下五は実感があって、しかも現実を超えた世界へいざなう措辞。写生であって写生を超えた世界を捉えている。
名月や大根おろしのやうな雲
神奈川 久里枕流
名月に少し雲がかかっている、という風景は千年ものあいだ、日本人に詠み継がれてきた。だが、その雲を「大根おろし」のようだという諧謔味のある比喩で捉えたことは今までになかっただろう。名月に雲がみぞれおろしのような感じにたなびいているのか。ハッとさせる比喩がよい。
ゐのこづち払ひをへれば誰もゐず
千葉  桑原いろ葉
何人かで秋草の野の中を通った。野を出る辺りで服にいのこずちの実が付いているのに気がついた。払ったり叩いたりしてようやく取れたが、周りをみると誰もいない。作者を置いて行ってしまったのだ。下五が深い読みをさそう。ゆったりした中七の調べにより孤独感が深まっている。
雑詠-夏石番矢・選
夕焼があのねあのねと呼んでいる
群馬  本田 巖
この句は、偶然できたのだろう。同時投句はまったくの駄作。偶然とは言え、心の奥底に働きかける秀句である。「あのねあのね」は「夕焼」の声だが、しかしその正体は何だろう。こちらへ来いと幼子のような誘いに従えば、どうなるのだろうか。神隠しにでも遭うのだろうか。
秋空に羽根を残して人となる
福島  呼吸
選者の好みで、「羽」を「羽根」に改め、一句を重い言い切りにするため、「秋空へ」を「秋空に」に、「なり」を「なる」にした。こういう句では断定が必須。人間は、堕天使であるとの厳しい句想であっても、「秋空」に残された羽根がどうなるのかという連想を優雅に楽しめる。
ヒガンバナコロリトイケバナドトイフ
神奈川  山口望寸
謎めいた一句。句想は安楽死願望と明確ながら、「ヒガンバナ」が呟いているのか、自分が呟いているのか、また誰かが呟いているのか、曖昧なところがかえっていい。その曖昧さは、実のところ、私たちの現実そのものの曖昧さでもある。こういう句は、女性でなければ書けない。
雑詠-西池冬扇・選
*茶碗浮く二百十日の洗桶
兵庫  井上徳一郎
プラスチックかステンレス製かもしれぬ。でも「洗桶」といわれると木の桶を想像してしまう。昔は、農家等の流しは屋外にあった。農家にとり二百十日は厄日、風の強い日に仕舞うのを忘れていた桶に洗い物の茶碗がぷかぷか浮いている。新奇性がある景を平明に詠って豊かな趣がある。
稲刈り機勇者のごとく田を去れり
静岡  吉田捷秀
この句は上五のあとに主格の助詞を省略した文体で、内容的に一物仕立てと解釈するのが普通であろう。「ごとく」を用いた「なぞらえ」の句は多くは成功しがたい。この句が成功した要因は稲刈り機を勇者と擬人的に表現したことである。それで稔りの豊かさ、誇らしさが表出された。
先生の赤ちやん来てる運動会神
神奈川 神野志季三江
運動会に担任の先生のパートナーが、赤ちゃんを抱いて見学に来ている。生徒の喜び騒ぐ様子が想像され楽しい。日常を平明に詠った庶民の生活の句である。この種の句材を詠うにはリアリティーとともにかなりの新奇性と癒しのある共感性が求められる。この句はそれに成功している。
雑詠-原 和子・選
神話なほ息づく浦や鳥渡る
島根  小原ひとし
掲出句の作者が島根の人ということで、出雲ならではの風土が立ち現れる。神話と共に行われる行事は出雲を取り巻く浦々からはじまるが、「鳥渡る」の季語が一句を引き締めて絶妙である。陰暦十月には、全国津々浦々から八百万の神々が出雲にやってくる「神渡し」が吹きわたる。
水澄むや湖底の里の機の音
栃木  伊勢丈太郎
天地にひかりが満ち、水が澄みわたると、水底の景がありありと見えてくる。かつて機織の盛んであった湖底に沈んでいる集落が、澄むことによって想起される。掲出句の作者には機の音が昨日のことのように聴こえてくるのであろう。「水澄む」が表出する季節の感情が切なく伝わる。
激論に日付変りて獺祭忌
東京  渕上信子
九月十九日は「子規忌」「糸瓜忌」「獺祭忌」など、子規の身辺が偲ばれる。自らの居を「獺祭書屋」と名付けていた思い入れが面白い。獲物をすぐに食さず並べておくカワウソ、詩歌に熱中し取り散らかされた書籍の中の子規が見えてくる。日付けが変わるまで激論、宜なるかなである。
雑詠-山田佳乃・選
*今日の雲すべて見届け捨案山子
群馬  小暮駿一郎
役目を終えた案山子が放り出されて天を仰いでいる。手持ち無沙汰で一日空を眺めている姿にどこか哀れを感じるけれども、稲の次には空を見守っていると、案山子の律儀な様子を捉えたところに作者の視点の優しさが感じられて心惹かれる。ゆっくりと流れる里の時間も感じさせる。
朝の露貰ひて鎌を研ぎにけり
三重  福田 正
農作業や草刈りに錆びやすい鎌を研ぐのは大切な仕事。朝まだ早い時間に草露で濡らして鎌を研ぐという作者の日常から生まれた一句。暮しの中のささやかな詩情をうまく句材とされたところがよい。等身大の実感のこもったリアリティーがある。朝露という季題がことに効いている。
露の世のなほも仮想の世に遊ぶ
大分  近藤七代
露の世というのは儚い現世のことである。そんな比較的古風な季題をバーチャルリアリティーの世界で遊ぶ子供たちという現実と取り合わせて今らしいタイムリーな一句にされたところが巧いと思う。「ポケモンGO」で現実と仮想の合間で遊ぶ姿に、素朴な違和感を抱かれたのだろう。
兼題
選者:大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)
今月の兼題…【白】
兼題-大高霧海・選
白椿戦後の続くこと祈る
大阪 田村昶三
ペリリューの海に白百合愛の供花
東京 菊地雅子
たましひの色かと白き曼珠沙華
愛媛 堀本芳子
兼題-高橋将夫・選
白足袋の白き動線能舞台
千葉 松本美智子
レントゲンの白き影浮き竜淵に
東京 中村ゆみ子
雪山の何も望まぬ白さかな
東京 棚木金剛
兼題-田島和生・選
戦跡のガマに佇む白雨かな
大分 下司正昭
*かつかつと白墨の鳴る夜学校
長崎 坂口かづさ
晩夏光白き磯着の稽古海女
富山 青木和枝
兼題-田中陽・選
*かつかつと白墨の鳴る夜学校
長崎 坂口かづさ
その時の影はまつ白ヒロシマ忌
愛知 石井雅之
どこからか人声白夜爆音も
兵庫 家永和治
兼題-中西夕紀・選
飛魚や船医の日誌けふも白
兵庫 河内きよし
白萩や母より強き人知らず
佐賀 萩原豊彦
告白の返事はまだか浮いて来い
兵庫 稲谷有記
兼題-名和未知男・選
小鳥来る遺書一行のあと余白
大阪 西田唯士
一輪は妻かも知れぬ白木槿
秋田 宮本秀峰
玉入れの白の負けぐせ鰯雲
愛知 山口こひな
兼題-能村研三・選
水の秋白黒つけぬ選択肢
福岡 山際はるか
白桃を十指の力抜き洗ふ
千葉 仁藤輝男
灯台の白き孤独やいなつるび
東京 坂さつき





2017年| 6月5月4月3月2月1月
2016年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月| 1月
2015年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
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