●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2016年11月号 ○
特   集
俳人たちの編集後記
高柳重信、星野麥丘人、高濱虚子、安住 敦、山口誓子、林 翔、森 澄雄
特   集
あなたは句碑を作りますか?
石工インタビュー、芭蕉句碑は作り過ぎ?、山口青邨と句碑 他
特別作品50句
大峯あきら
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、「俳句の『読み』を読む」ー岸本尚毅、他
セレクション結社
「風土」南うみを
俳句界NOW
山﨑十生「紫」
甘口でコンニチハ!
川本三郎(評論家)
特別作品21句
池田澄子、西村和子、山下知津子
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢30名の選者陣!

添削教室選者
河内静魚、山尾玉藻(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、大牧広、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
日焼児の路地いつぱいの蠟石画
神奈川 石井勇
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
蛍火に会うて人とは逢はざりき
神奈川 大矢恒彦
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
てのひらはやさしきお皿新豆腐
愛媛 堀本芳子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
農継がぬ子の服着たる案山子かな
北海道 江田三峰
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、大牧広、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
銅鑼ひびくシーボルト邸四葩咲く
東京  古谷 力
シーボルトはドイツ人の医者であったが、長崎のオランダ商館の医師として日本に来た。同時に日本の植物や動物を調べた。シーボルトが与えた紫陽花の学名の一部に、「オタクサ」とあるが、これはシーボルトの日本妻の名であるという。長崎のシーボルト邸には紫陽花がふさわしい。
*刻刻とこの世の色に羽化の蟬
三重 浦 悦子
蟬は幼虫として地中に数年いた後、地上に出て羽化する。だんだん羽に色がつき、体の色が濃くなってゆく。それを「この世の色に」なると言ったところが面白い。「刻刻とこの世の色に」という表現に作者の気持が佳く表されている。自然の不思議さに驚き、掲句を作られたのである。
踊りの輪抜け鳥海山ちょうかいやま鳥海山の夜風かな
秋田  宮本秀峰
踊りの輪に加わり、一生懸命踊っていた。ふとその輪から抜けて一休みしていると、鳥海山から涼しい夜風が吹いて来たのである。踊りで汗ばみ、疲れた体を鳥海山の夜風が癒してくれる。鳥海山の麓の盆踊りの光景が美しく描かれている。
雑詠-稲畑廣太郎・選
水切りの石の飛ぶ先雲の峰
三重  渡邊紘男
筆者も子供の頃、いや最近でも、水辺で水切り、つまり、平たい石を水面すれすれに投げて水面に石をバウンドさせる遊びが好きで、よくやる。どれだけの回数バウンドするかを競ったりするが、ふとその先にある夏空に視点を移し、雲の峰の大きく豊かな景を見事に表現している。
大夕焼白鷺城の炎上す
兵庫  西村 宏
言わずと知れた姫路城である。その白さ故に白鷺城の別名があるが、先頃の改修でより白さを増し、何か「白過ぎ城」などと揶揄されたりしているそうだが、実際見るとその美しさは尋常ではない。その純白を夕焼が染め上げているのである。正に炎上するほどの美しさが伝わってくる。
お黙りと一つ風鈴鳴りにけり
福岡  髙山桂月
何か諍い事があって、口論でもしているのだろうか。夏の暑い盛りであると、些細なことであっても、聞いている人にとっては結構暑苦しく感じるだろう。尤もこの時聞いていたのは風鈴である。風が吹いてチリンとなったその涼し気な音が、まるで諍いをたしなめているように清々しい。
雑詠-茨木和生・選
被災地にすめらみことのこゑ涼し
熊本  加藤いろは
作者もこの度の熊本地震の被災者の一人である。被災地を巡って、人々を労い、お見舞いの言葉を述べられる天皇の声は涼やかに聞こえたのである。被災者の一人一人に届いたそのお声はどれほどか人々の励みになったに違いない。
弾圧を力としたる不死男の忌
静岡  松山好江
東京三は昭和十六年二月治安維持法違反の嫌疑を受けて検挙され、同十八年二月に保釈されるまで獄中にいた。戦後、秋元不死男と俳号を改め、山口誓子の「天狼」創刊に参加、俳誌「氷海」を主宰した。作者は戦前の弾圧を力として、戦後の不死男は生きたと見たのである。
オシャタカ祭水夫は裸で祓はるる
兵庫  太田よを子
オシャタカ祭りは兵庫県明石市の岩屋神社の祭礼で明石市の無形民俗文化財に指定されている。神事の後、オシャタカ船を沖合にまで押し出し、海上安全、大漁を祈願する。祭に参加する青年漁師たちは神事の始まる前に褌一つの裸でお祓いを受ける。いかにも海の祭りらしいお祓いだ。
雑詠-今瀬剛一・選
にぎやかに皆帰りたり蚊遣香
愛知  石井雅之
いま作者はひとり回想に耽っている。お子さん達、お孫さん達……、沢山集まってそれはにぎやかであった。それはつい今し方、帰る時まで続いていた。「にぎやかに皆帰りたり」という表現から充実の後の余韻、多少の寂寥感を読み取る。情景的にも蚊遣香のみを描いて印象的である。
見舞状涼風の句を書き添へて
大阪  藤田 晴
この「見舞状」を病気などのお見舞いと考えてもいい。しかし私はあえて親しい友人などへ当てた暑中見舞いを考えてみた。そう考えると「涼風の句」が生きると思うのである。自作でも好い、有名な俳句でも勿論いい。こうした見舞状というものは一番相手の心に響くのではないか。
海の日の海青青として平ら
東京  山内奈保美
私は東日本大震災以降、海を見るのが辛い。ときどき列車の窓などから凪ぎ渡った海を見ると妙にほっとした思いになる。作者は海の日に海へ出かけたのであろうか。そしてその静かな様を見て「青青として平ら」と素直に表現をした。こうした海がいつまでも続いてほしいと切に思う。
雑詠-大串章・選
生きてゆく道に片蔭ありにけり
福岡  塚田由美
太陽が照りつける真夏の道を歩いて行くのは大変。そんなとき家や塀の影に出会うとほっとする。これが「片蔭」。その片蔭が「生きてゆく道」にもある、というのである。この世を生きてゆくには多くの艱難辛苦があるが、その厳しい人生の道にも片蔭がある、とは含蓄に富む言葉だ。
母校訪ふこと楽しみの帰省かな
千葉  塩野谷慎吾
母校は懐かしく忘れ難い。楽しかったことや悲しかったことなど、思い出がいっぱい詰まっている。その母校を訪ねるのを楽しみに帰省するというのである。勿論、帰省するのは母校を訪ねるためだけではないだろう。しかし、なんと言っても母校を訪ねるのが一番楽しいのである。
冷奴指示詞ばかりの老い二人
群馬  武藤洋一
指示詞には代名詞の「これ」「それ」「あれ」「どれ」や連体詞の「この」「その」「あの」「どの」などがある。この句の場合、冒頭に「冷奴」とあるので、「これはおいしい」「うん、この醬油味はいい」などと話しながら、嬉しそうに冷奴を食べているお年寄りの姿が浮かんでくる。
雑詠-大牧広・選
足音はうしろから来る楸邨忌
福岡  川崎山日子
ふるさとの山に朝の虹がかかっている。久しぶりに見る故郷の虹に感動し、作者は様々なことを思ったに違いない。友達と一緒に走り回った子供の頃のこと、虹を見る余裕などなかった戦中戦後のこと、そして今こうして虹を見ることの出来る幸せ、などなど思いは尽きないことだろう。
けふもまた護憲の集ひ雲の峰
静岡  渡邉春生
ポジティブな声調がいい。日本の憲法は、九条を含めて世界に誇れるものである。その憲法を守ろうとする集会がはじまった。ふっと気がつくと前方に湧き上がっている雲の峰。護憲の集いを祝福しているようだ。「けふもまた」でこうした良心的な集いの様子がわかる。
ざら紙の父の捕虜誌を曝しけり
愛媛  境 公二
作者の父はおそらく、シベリアか南方で捕われたのであろう。粗末なザラ紙を綴じての日誌、きっと望郷の思いにみちた日誌であった筈である。その父上も彼岸へ旅立っている。父の律儀な文章を追っていると、ひたすら追慕の思いは増すばかりである。
雑詠-角川春樹・選
体内の水の平らに籠枕
東京  関根瑶華
籠枕は、夏季の昼寝に用いられ、竹や籘で編まれているため涼気を呼ぶにふさわしい。掲句では、籠枕に横になった作者の安堵や平穏の様子が、「体内の水の平らに」というしずやかな措辞によって描かれている。
背泳ぎの手の戦争へたどり着く
大分  金澤諒和
戦争をテーマにした句が散見されたが、この句は日常のなかでその不安を実に巧妙に捉えている。背泳ぎの手に絞られた焦点から、いっきに戦争へと意識を転換したことで、一句に飛躍と意外性が生まれた。
夏帽子置きてひと日の旅終る
滋賀  井上美代子
「ひと日の旅」というところに、作者の感慨がよく見て取れる作品である。日本各地において記録的な猛暑が観測されるなか、夏帽子をかぶって外出してきたときの、まさしく作者の実感であろう。
雑詠-岸本マチ子・選
笹飾りアンパンマンも飾られて
兵庫  萩原善恵
七夕の笹飾りにアンパンマンがと思うと、ついおかしくなる。これも時代の流れなのであろう。きっと子供に「さあー、早よう早よう」とせがまれたに違いない。空飛ぶアンパンマン、こんなヒーローが出てくれたらどんなにいい事だろう。
灸花棚田を守る十六戸
三重  森下充子
灸花は別名ヘクソカズラともいい、めだたない地味な花だが、「棚田を守る十六戸」といっしょに棚田の畦などにひっそりと咲いている。地味な人ほど、地味な花ほど頼り甲斐があるのかも知れない。
自然薯の頑固まるごと掘りにけり
東京  阿萬英俊
自然薯というのは自生しているヤマイモで、スマートではない。なんとも頑固まる出しで、そのうえ非常にひきが強い。「頑固まるごと掘りにけり」に思わずハハハと拍手。
雑詠-古賀雪江・選
*寝返りを打ちて暑さを裏返す
三重  塗矢智惠子
年々激しさを増す天象異変。人々は極度の暑さに馴らされてきている。夜になっても引かない暑さに寝苦しく、いくたびもする寝返りであった。「暑さを裏返す」がこの句のポイント。擬人法は過ぎると主観の強さだけが強調されるのであるが、この句の場合は、誰にでも共感を呼ぶ。
日盛りの赤が騒つく中華街
京都  塩谷一雄
中国本土から移住をして、全世界に散在する中国人やその子孫が形成した街が中華街である。中国では赤は目出度い縁起の良い色とされているので、中華街は赤の色が目立つ。日盛りの街の喧騒を一層にする、暑苦しい赤い街並であった。
ラムネ飲み干し心臓を丸洗ひ
京都  名村柚香
ラムネは、炭酸飲料で夏の涼味を誘う飲み物である。子供の頃によくしたように、立ちながら飲み干した。かしこまってテーブルに向かって飲むのではなく、ラムネは立ち飲みが似合うのである。一気に干して、そのさわやかさに気が甦ったようであった。
雑詠-坂口緑志・選
敦盛のごとき揚羽を捕へけり
神奈川 石原日月
平敦盛は清盛の弟経盛の末子。一ノ谷の戦いで、熊谷直実に討ち取られた。十五、六歳の薄化粧した美しい若武者であったという。その敦盛を彷彿とさせるような美しい揚羽蝶を捕らえたのだ。笛の名手と言われた敦盛の「平家物語」の名場面を思い出しているのであろう。
蛸ぶつの舌に吸ひつく真砂女の忌
愛知  安井千佳子
鈴木真砂女は、千葉県鴨川の老舗旅館の女将であったが、出奔して、銀座に小料理屋「卯波」を開いていた。〈羅や人悲します恋をして〉のような句を残して、九十六歳でこの世を去った。忌日は三月十四日。「卯波」でも出されたであろう蛸ぶつを舌にのせ、真砂女を偲ぶのである。
原爆ドーム火だるまとなる大西日
愛媛  両村ゆきゑ
広島に落とされた原子爆弾によって全焼した、所謂「原爆ドーム」。真夏の熱さのかげりも見えない夕日が原爆ドームを真赤に包んでいるのであろう。あたかも、原爆投下直後の原爆ドームが燃えているかのように。改めて、平和の尊さを思うのである。
雑詠-佐藤麻績・選
闇からめ烏瓜咲く谷崎忌
東京  南北ひろし
烏瓜の花ほど不思議で美しい花はない。糸状のレースの様で夜に開き翌朝にはしぼんでしまう。それが「闇からめ」の表現になったようだ。秋にあの赤い実になるなど想像もつかない。作家・谷崎潤一郎は、「陰翳礼讃の思想」をもつというが、この句に奥行きをもたせることとなった。
傷口のやうにひらきし薔薇の花
東京  曽根新五郎
華やかな薔薇も花として開く前の蕾は丸くて固い。やがて大きく開花するのだが、そのプロセスは傷口と喩えられればその通りである。切込まれてゆく傷口は幾重にもなっていく。傷口と思って眺めると、美しいことが痛々しくさえ感じ、更に魅かれる。
あぢさゐの白のをはりの縹色
福岡  池上佳子
紫陽花は七変化とも呼ぶ。即ちその様に変化する。白紫陽花は白く咲き出て白を通して終るようだが、この作品は更に確かに観察されて詠まれている。終りには縹色になっているという。それは薄い藍色ということだ。藍色が紫陽花本来の色かとも思う。
雑詠-鈴木しげを・選
香水をつけて負ひ目のありにけり
京都  塩谷一雄
負い目というのは誰にでも一つや二つある。この句の作者は男性のようだが、最近は香水に男女の差別はないらしい。なにか負い目があるから香水をつけるわけではあるまい。また香水で負い目が消せるものでもない。人間模様もさまざま。だから俳句も奥がふかい。
而していまだ独り身冷奴
神奈川 宮島流星
つよがって独り身を通しているわけではない。ある時は良き伴侶を得たいと行動を起こしたこともある。「而して」の表現に俳諧味があるから、「いまだ独り身」がさばさばしている。これを受けての「冷奴」の季語が絶妙なはたらきをしている。練達の作者であろう。
小鳥来る一匙づつの介護食
愛媛  堀本芳子
介護を受ける身にはなるべくなりたくはない。この句は介護をしている方の句とも受けとれる。或いは介護の場を客観的に捉えたともいえる。中七の「一匙づつ」のやさしさが心にしみる。窓辺には秋に渡ってきた小鳥が見え隠れしている。明るさのある一句。
雑詠-辻桃子・選
亀の子の首抜けさうな程伸ばす
愛知  山口 桃
夜店で売っている亀の子か、池の石にのぼっている亀の子か。何かを見ようとして、思いきり首を伸ばしている。誰でも見たことのある情景だが、「抜けさうな程」というところに、亀の子のういういしい好奇心が感じられ、どこか生きていることの切なさも感じさせる。
持ち替へて団扇の風を送りけり
大阪  吉田 喬
家庭の団欒か親しい人の集まりの席だろう。団扇を使っていたら、近くにいた人が暑くてやりきれないとでも言ったのだ。つと団扇を持ち替えて、その人の方に風を送った。気遣いのある女性によく見かける行為だが、そのさりげない一瞬をとらえて面白い。
人を観ることに飽きたる金魚かな
青森  青田士郎
水槽や金魚鉢で飼われている金魚だ。人がしょっちゅう覗き込む。金魚にしてみれば、向こう が観ればこちらも観ざるを得ない、うっとうしいことだ。いいかげん人を観るのに飽きたよ、と いうのである。金魚になり替わって詠んで、現代的な倦怠感が感じられるところが愉快だ。
雑詠-夏石番矢・選
銀漢や箒で描く無限大
東京  矢作十志夫
雄大な俳句。天上の銀河に対して、作者が地上に配したのは、無限大のあのしるし。天上の太い線としての銀河と、地上に描かれた小さい無限大の対比は、さまざまな哲学的想念を掻き立てる。また、「箒」でひととき地面に描くのだから、卑俗さも隠し味としてあり、滑稽さも混じる。
熱帯夜歩きスマホのゾンビたち
大分  近藤七代
携帯奴隷が、スマホ奴隷に化けたのは、日本に限定されない、二十一世紀初頭の世界的現象。「スマホ」とは、個人の脳味噌をネット情報の指令下に置く装置。頭を失ったことに気づかない「ゾンビ」としてのスマホ族が、暑い夜にぞろぞろ町を出歩くのは、ホラーではなく、現実。
炎昼や千人針はどうしたっけ
東京  二村博三
人間は忘れっぽい。どんな重大なことも、どんな深刻なことも、時間がたてば忘れてしまう。女性たちが出征兵士の無事を祈って一針一針縫った「千人針」も、兵士の戦死とともに闇に消え、残ったものも等閑視される。そして、もっと大切なものを忘れていることに、人は気づかない。
雑詠-西池冬扇・選
炎天のゴールキーパー横つ飛び
神奈川 尾﨑千代一
サッカーのゴールキーパーと見たい。無駄がなくて良い。高速のカメラで撮ったシーンのようだ。しかし文字での表現はそこに表出されたシーン以上のイメージを生じる。炎天という言葉がその日の天気を表すのみならず雰囲気すら醸し出す。「横つ飛び」という言葉で躍動感が出た。
小鋏に付けし鈴鳴る夜なべかな
新潟  矢萩邦子
夜なべという言葉は不思議なノスタルジアを醸す。もう見る事が少なくなったシーンだからか。鋏に鈴が付けてあるが、勿論大きな裁ち鋏ではない。留めの糸玉を作って小鋏でチョンと切る。チリンと安らぐような音が寝ている子どもの夢に入り込む。文体に適度な緩みがあっても良い。
ポケットより智恵の輪を出す冷房車
神奈川 安室敏江
この句の良さは意外感にある。冷房車でほっと一息した人が、やおらポケットから、ごそごそ何かをとりだした。なんとそれが智恵の輪! 周囲に目も留めず一心不乱に解き始めた。スマホに向かう人の多い中、一際目をひいたのだろう。人は意表を突かれると愉快を感じることもある。
雑詠-原 和子・選
広島の被爆青桐声挙げよ
岐阜  斉藤千津子
東京都小金井市では八月二日、広島で被爆した青桐の二世が植樹され、平和都市としての式典が開かれたそうである。まさに「声挙げる」である。被爆した青桐の奇跡的な再生は歳月をかけて青々と多くの人の勇気になっている。楚々とした青桐の祈りを受けとめたいと思う。
銛突くや少年川に夏を呼ぶ
福岡  矢野二十四
いろいろある漁具の中で銛の瞬発力は「突く」に尽きる。しかも、上五の切れ字が一句を引締め少年の習い覚えた技の凜々しさが気持よく想起され、「夏を呼ぶ」という季節への働きかけも俳句ならではの説得力がある。こころに沁みる俳句は、物の本質を捉えたわかりやすさにある。
叩かるる程に涼しき上布かな
愛知  安井千佳子
○上布は夏の衣服に用いられる上等の麻布で、「薩摩上布・越後上布」などが有名であるが、夏こその涼しさとなる上布は知る人ぞ知るで、なつかしさを感じる。叩かれれば叩かれる程、上布ならではの本領を発揮するのか、布に対する思いが伝わる。「涼しき」に季節への敬意が窺える
雑詠-山田佳乃・選
*寝返りを打ちて暑さを裏返す
三重  塗矢智惠子
今年の暑さは格別で寝苦しい夜が続いた。横になっていると蒲団に触れている背中が熱をもつので知らず知らず幾度も寝返りを打ってしまう。そんな寝返りの様子を「暑さを裏返す」と少し自分のことから離れた表現をしたところが面白い。「暑さ」という季題を非常にうまく使われた。
*刻刻とこの世の色に羽化の蟬
三重  浦 悦子
羽化したての蟬は色をもたず透けている。日ごろ見ている蟬とは違って神秘的な色である。そ の弱々しい純白の蟬が刻一刻と黒味を帯びて、しっかりとこの世に生をうけた色へ移り変わって いく。作者はそんな生命の神秘に出会われて印象的な一句とされた。「この世の色」が巧い。
四帖半置く物の無し冷奴
羽田野由紀
四畳半といえばどこか侘しい一間の暮しを思い浮かべるのだが、作者は下宿されたのか新居の四畳半の使い道に悩まれているのか。いずれにせよ、すっきりとした何もない部屋と冷奴という真四角の無垢な容が響きあっていて面白い。さらりとした人柄もどこか感じられるような句。
兼題
選者:大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)
今月の兼題…【真】
兼題-大高霧海・選
戦あるな真実は夏草の果
埼玉 関根道豊
生くること存ふること梅真白
兵庫 𠮷田光代
鑑真の心眼眩し新樹光
長野 土屋春雄
兼題-高橋将夫・選
真剣な汗の言葉を買ひにけり
茨城 野口英二
真っすぐな道蛭が死に森が死ぬ
北海道 武田 悟
原爆忌星の真中が爆心地
大分 金澤諒和
兼題-田島和生・選
麦刈りて真黒に乾ぶ大地あり
福岡 宮尾正信
水垢離の子らの真顔や山開
静岡 渡邉春生
空蟬の泥の乾ける真昼かな
愛知 坂倉公子
兼題-田中陽・選
真つ黒な裸眠りぬ白き尻
東京 矢作十志夫
真つ白なシャツの怒濤やデモの街
三重 圦山勝英
青空を真空と読み終戦忌
神奈川 神野志季三江
兼題-中西夕紀・選
トロ箱へ蹴り戻さるる真蛸かな
愛知 川口健次
どの人も空の真ん中富士登山
兵庫 森山久代
蜘蛛の巣に顔を取られて真の闇
神奈川 松本道孝
兼題-名和未知男・選
列柱に喜雨の到りて鑑真忌
東京 関根瑶華
真鳥住む雲梯うなて雲梯の森や月冴ゆる
茨城 加藤そ石
月山の水の真青や新豆腐
山形 鈴木花歩
兼題-能村研三・選
鵜飼の鵜真つ正直に吐きにけり
岐阜 七種年男
迫真の阿波踊もて地震見舞ふ
鹿児島 内藤美づ枝
真正面のゴロを逸して夏終る
千葉 仁藤輝男





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