●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2016年10月号 ○
特   集
源義と春樹
受け継がれる魂と修羅の歌
特   集
新主宰、新副主宰大競詠
日下野仁美「海」、原朝子「鹿火屋」、鈴鹿呂仁「京鹿子」、小杉伸一路「九年母」、大石靖子「玄海」 他
特別作品50句
たむらちせい
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、「俳句の『読み』を読む」ー岸本尚毅、他
セレクション結社
「都市」中西夕紀
俳句界NOW
鈴木裕之 久留米脩二「海坂」
甘口でコンニチハ!
山根基世(フリーアナウンサー)
特別作品21句
村上喜代子、才野 洋、千々和恵美子
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
河内静魚、山尾玉藻(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
身の内を巡る輸液や明易し
東京 川俣由紀
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
ミニトマト捥ぐを一瞬ためらへり
東京 腰山正久
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
夕凪の波止にながながねまる猫
広島 田中京子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
降り出して残りの花火滅多打ち
北海道 小野恣流
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
誰が置ける砂時計かや敗戦忌
広島  別祖満雄
八月十五日の敗戦日の直前には、六日の広島忌と九日の長崎忌が並ぶ。原子爆弾の爆発は一瞬であるが大きな被害が生じる。それより敗戦日まであっという短い時間であった。砂時計が測れる時間も数分の長さ。敗戦日の砂時計は、その短い時間を測るかに置かれている。象徴的な句。
田水張る書紀の世よりのうなてもて
福岡  洞庭かつら
福岡県には、「魏志倭人伝」の伊都国や奴の国があった。日本書紀にも筑前・筑後の歴史が語られている。そこでは稲作が早くから発達し田の用水を引く溝も作られていた。現在もこの溝が使われ、田水を張りながら、書紀からのものだと思うのである。その気持を詠ったところが佳い。
朝明けをごめ鳴きわたる運河かな
奈良  渡辺政子
ごめ(海猫)が秋になると南方へ移って越冬する。そのごめが朝明けに運河の上を鳴き渡って行く光景を描いているところが佳い。元気よく海猫が鳴く姿が目に浮かんで来る。
雑詠-稲畑廣太郎・選
黒々と生まれて淋し烏の子
兵庫  高橋純子
動物の子というのは可愛いものであるが、どちらかというと、烏自体あまり人間には歓迎されていないようなふしもあり、烏の子であっても現代は駆除されたりしているようだ。そんな哀れな響きも醸し出している句でもあるが、しっかりと動物に対する愛情も感じられる句である。
雨といふ鞭遠泳の子を叩く
鹿児島 内藤美づ枝
実は筆者も遠泳は得意な方で、中学時代の臨海学校で海を何キロメートルも泳いだ記憶が懐かしく甦ってくる。泳いでいる時は水に入っているので雨も余り感じないのかも知れないが、長距離を泳ぐ遠泳では結構な枷になるのだろう。また反対に子を励ます愛の鞭のようにも解釈出来る。
半身は娑婆に戻して昼寝覚め
新潟  川崎昌男
夏の暑い時はどうしても体力を消耗してしまい、やはりそんな時には昼寝が一番である。ついつい寝過ごしてしまうほど気持良く眠れた時には起きるのにも時間がかかるものである。だんだんと体が目覚めてゆくプロセスをユニークな表現で、正に季題らしい趣が感じられる句である。
雑詠-茨木和生・選
滝といふ音のかたまり落ちにけり
熊本  加藤いろは
滝の句といえば後藤夜半の〈滝の上に水現れて落ちにけり〉を思い浮べるが、この句、夜半の句を熟知して大胆に詠んで成功している。夜半は視覚的に滝を捉えているが、この句は滝を視覚で、聴覚で捉えた上で視覚の部分を消している。音のかたまりが大音響を伝えてくれる。
山の遠近は明確夏霞
奈良  濱田武寿
いくつもの山々の重なりを目の前にしている。夏霞がかかっているが、山々は夏霞に消されるのではなく、遠い山は遠く見え、近くの山は近くに見えて、その山々の存在は明確に見えている。大和の国を囲んで立つ山々を思い遣ってもよい。
早乙女の足抜くことが一難儀
熊本  荒尾かのこ
お田植え神事に奉仕する早乙女である。早苗を手に持ち、田を植えていくのである。その途中であろうか、足が抜けなくなって、植え進むことができない。足を抜こうとすると力が入って、かえって抜けなくなってしまう。「一難儀」は「ひとなんぎ」と読むと状況が眼前する。
雑詠-今瀬剛一・選
永らへし二人で茅の輪くぐりけり
栃木  石井 暁
作者が何歳になられるか私は知らない。「永らへし」とあるからにはそれなりの年配で、そうした二人と言うからにはこれまで苦楽を共にしてきたご夫婦なのではないか。その様に考えると「永らへし」には来し方への感慨が加わる。そんな二人がくぐる茅の輪。感慨無量であったろう。
*田を植ゑて近江いよいよ水の国
愛媛  境 公二
作品の中の言葉が緊密に結びついて、「近江」の情景を見事に描き出している。近江は確かに琵琶湖を中心として水の広がりの美しい国である。さらに「水の国」と呼ぶにふさわしいのは田を植えた直後かも知れない。一面の植田、それが琵琶湖の情景と一体となってイメージが膨らむ。
鮎釣りの去りて水辺の暮れにけり
東京  平野正男
私にも鮎釣りに夢中だった時期があるのでこの情景はよくわかる。夕方になり、釣り人が去るにしたがって川は淋しくなっていくのである。そして水音だけが妙に響く。その様なときには確かに「水辺の暮れにけり」という意識が湧いてきたことを覚えている。まさに実感の強い作品。
雑詠-大串章・選
朝の虹故山の空を飾りけり
千葉  三木星音子
ふるさとの山に朝の虹がかかっている。久しぶりに見る故郷の虹に感動し、作者は様々なことを思ったに違いない。友達と一緒に走り回った子供の頃のこと、虹を見る余裕などなかった戦中戦後のこと、そして今こうして虹を見ることの出来る幸せ、などなど思いは尽きないことだろう。
炎天へ出る靴下をよろけ履く
群馬  小暮駿一郎
暑い夏の最中、外出の準備をしている。ワイシャツを着てズボンをはき、今度は靴下である。ところがどっこい、片足を上げて靴下を履こうとすると体の均衡がとれずよろけてしまった。これではいけないと慎重に身構え、用心しながら履くと今度はうまく履けた。やれやれである。
一匹の蟻にも影のありにけり
高知  山本敏子
一匹の小さな蟻にも影がある。蟻は生き抜くために餌を求めて走り回る。影も一緒に走り回る。炎天のもと、ひたすら走り続ける蟻とその影を見ていると、何か励まされる気がする。上五「一匹の」から下五「ありにけり」まで、余計なことを言わず一気に言い下ろしたところが良い。
雑詠-角川春樹・選
水の裏のぞくエンゼルフィッシュかな
兵庫  池田喜代持
熱帯魚は、魚彩が極めて鮮やかなうえに、姿態や奇習がおもしろいので愛好家に人気がある。掲句では、エンゼルフィッシュの一動作を捉えて、水の裏を覗いたと感得したところが手柄。「天使」と冠された魚名を生かした佳吟。
夜鷹啼く版画の月は玉子色
茨城  加藤そ石
夜鷹は、夜行性で低山などに生息し、昆虫類を捕食し、キョ、キョ、キョと鋭く鳴く。掲句のおもしろいところは、中七下五で版画の夜景をもってきて、画中画のようにまとめたところ。まるで浮世絵のように仕上げた。
雲の峰放牧牛の耳にタグ
静岡  原田幸次
「雲の峰」の季語により、牧場のいきいきとした景を読者に伝える。放牧された牛たちも牧草をゆったりと咀嚼しているのだろう。しかし、牛の耳に止められたタグに焦点をあてたことで、「明」と「暗」の対比が句中にもたらされた。管理された命のあわれがただよう。
雑詠-岸本マチ子・選
家族みな昭和生まれや昭和の日
千葉  芦立みさ子
昭和というのは一九二六年から一九八九年までの六十四年間をいうが、その間太平洋戦争があったり、バブルがあったりと大変起伏の富んだ年であったが、今思うと『三丁目の夕日』ではないが、何となく懐かしい。そして家族みんなが昭和生まれというのもなんだろうなあと思う。
過去とんと突き落としたる心太
東京  渋谷 遥
「ところてん突き」という箱状の筒の一端に格子形の編目があり、とんと突くと四角いところてんが細長く切れてくる不思議。何回もやって𠮟られた事があったが、とんと突いたら過去が変形し雲散霧消してくれたらどんなに良いだろうと思うことが人にはある。
これ以上のダイエットは無理水馬
広島  谷口一好
体長十一ミリから十六ミリ。あめんぼといっているが、確かにこれ以上のダイエットは無理に違いない。それにしても人間であってもこれ以上のダイエットは無理という人を発見すると、なんとなく和んでくる。あめんぼって飴の匂いがするって本当かしら。
雑詠-古賀雪江・選
レース編む心どこかに置き忘れ
神奈川 山口せうこ
テーブルクロスやカーテンなどとして、レースは一年中身近にあるが、その視覚的な清涼感は断然夏に相応しい。組み合わせたり、透かし模様を作ったり時を忘れてレース編みの世界に没頭した。そんな無心なひと時を「心どこかに置き忘れ」と。女性でなければ解らない世界であろう。
天意かく真白なりしか朴の花
福岡  久松明忠
朴の花は、白色の大花を開き、非常に高い香りを放つ。作者は、その無垢の白さは神のなせるご意志であろうか、いや絶対にそうに違いないと願望を込め、納得をしているのである。初夏の頃、芳香のある花を大きな葉の間に見た時には、はっとする存在感を思う。
水音に水急かさるる崩れ簗
大阪  名本喜美
下り簗が放置され崩れて半分水に漬いているような様は寂しい景だ。あたりに枯色が見え始める候は非常に侘しく、人の心にざらざらしたものが生じる。崩れた簗を越えて行く水が水を急かしている様が、冬の訪れの近い事を一層に思わせ、それを見ている作者の心の波立ちを思った。
雑詠-坂口緑志・選
うすうすと心に飢ゑや太宰の忌
熊本  加藤いろは
少し心の飢えを感じはじめたという作者。人との心のつながりや自然とのつながりが薄くなってきているのだろうか。孤独感や生きることへの辛さのようなものを感じはじめたのかも知れない。太宰治の苦悩を、ふと思うのであろう。
発禁の一書机上に火蛾の夜
大阪  小畑晴子
発禁の書と言えば、A・ヒトラーの『我が闘争』やD・H・ローレンス作、伊藤整訳の『チャタレー夫人の恋人』などが思い浮かぶが、何れにしても、胸騒ぎのするような、そんな一書が置かれているのであろう。「火蛾の夜」という措辞がすこぶる刺激的かつ効果的である。
ホチキスの針のきれたる梅雨入かな
埼玉  中久保まり子
ホチキスは手軽な紙綴器。普通一束五十針分をセットして使うが、いつ無くなるかは分かり辛い。押してみて、初めて無くなったと分かるのである。折りしも、梅雨入り宣言が報じられている。ホチキスの針と梅雨入り。このくらい離れている方が却って心地好い。
雑詠-佐藤麻績・選
翡翠の一瞬水を染めるとき
兵庫  前田 忍
翡翠はかわせみ、しょうびん、ひすい等と呼び名があり、非常に羽色が鮮やかで美しい。池沼などの枝にひっそりと止まって水中の獲物をとったり、水面をかすめて一直線に飛ぶ。即ちこの句の様に美しい羽色が一瞬水を染めるのである。確かな把握の作品である。
藻の花や水路閣へと辿る道
兵庫  百目鬼 強
水路閣と言えば琵琶湖から水を引いた、京都に見られるエキゾチックな煉瓦造りの水路橋を思い出す。大寺の景観に溶け込んだその水路は他には見られぬ魅力がある。水路となれば美しい藻の花が涼味を感じさせるにちがいない。中でも梅花藻など印象的である。
裏木戸の閂外す十三夜
東京  宇井偉郎
十三夜は後の月である。豆名月、名残の月などともいうが、年によって日が異なり遅いときは十月末か十一月の時もある。少し欠けていて寂しい。満月とは違うばかりか、やや寒さを感じもする。したがって人恋しさがあるのだ。閂を外して人待つ心もわかるようだ。
雑詠-鈴木しげを・選
金魚玉話は宇宙へと及ぶ
福岡  森山 信
横田早紀江さんは北朝鮮によって拉致された横田めぐみさんの母である。当時十三歳であっためぐみさんが忽然と姿を消してからすでに四十年近い歳月が経とうとしている。父母の悲しみ憤りは言葉にならない。母親である早紀江さんの胸にめぐみさんが帰って来ることを祈るばかりだ。
櫓を棹に持ちかへ鳰の浮巣見に
茨城  國分貴博
名人桂文楽の「船徳」が忘れられない。舫ってある舟を出す時は棹をさす。少し広いところへ出たら櫓に変える。掲句は「船徳」とは関係ないが、小舟をあやつってこちらは巧みに鳰の浮巣をたしかめている。櫓から棹に持ちかえることで臨場感がよく出ている作。
潮の香の届く改札口の夏
福岡  白川砂太
普段は人の乗り降りも少ない海辺の小さな駅なのだろう。長い梅雨も明けて、乾いた海の風がいよいよ夏本番を感じさせる。駅の改札口に焦点をあてて「改札口の夏」と詠んだ。夏休みの海水浴を楽しむ家族で賑わうのだろう。改札口を出た先に白い雲が立っている。印象鮮明な一句。
雑詠-辻桃子・選
伴泳に疲れし教師背泳ぎす
鹿児島 内藤美づ枝
一列に遠泳する生徒たちについて伴泳していた教師だ。もう終りという所まで来たのだろう。いきなり上向きになりすいすいと背泳ぎを始めた。それまで生徒たちの安全に細かく気を配り、気を張って泳いでいたのだ。その緊張もほぐれ、いかにもせいせいとした快い感じが伝わってくる。
胸はつて争ひ合へる羽抜鳥
滋賀  北村和久
古い羽が抜けて新しい羽が生え揃うまで鶏は何ともみすぼらしい姿になる。抜け羽も飛び散っ ているなかで羽抜鶏同士が争っている。双方ともに譲らず、嘴で攻撃しながら追いかけたり追い かけられたりしているのだ。「胸はつて」の表現が、精一杯の矜持を表しているようで切ない。
生垣を透けるほど刈り夏に入る
愛媛  稲井夏炉
夏になると、庭木は枝払いをして混み合った葉を除き、風通しをよくする。この屋敷は厚い生垣に囲まれていたが、向こうが見えるほど刈り込んだのだ。生垣ごしに今まで見えなかった庭の様子も見える。いさぎよく刈り込んださまが涼しげで、何とも気持がよい
雑詠-夏石番矢・選
デスマスク薔薇のアーチの向かう側
千葉  宮山久美子
印象派の巨匠クロード・モネ晩年の「バラの小道」を連想させる一句。モネは自宅の庭の薔薇のアーチの奥に何も描かなかったが、この句の作者は「デスマスク」を置いた。そこが優れている。一句としては人生の栄光の時期をくぐって必ず訪れる死を強調しているが、余韻は暗くない
ごきぶりや新聞紙てふ聖遺物
三重  伊藤衒叟
皮肉がたっぷりと簡潔に、またスマートにこめられた秀作。「新聞紙」は読まれる前からゴミになった。日本のジャーナリズムが厄介な死体になった昨今を暗示している。ごきぶりでもつまんで捨てるぐらいの役にしか立たなくなった。拙句に〈桜散ル大イニ血ヲ吸フ新聞紙〉がある。
押入れをさぐつてをればはたた神
千葉  桑原いろ葉
「はたた神」が「はたはた神」つまり、ものがぶつかって大きな音を出す神に由来するのであれば、簡単に理解できる句想。しかし、それだけにはとどまらない。押入れの奥行と暗さが、意外にも雷のそれとつながっている。結局、日常世界に潜む異次元への通路をこの句は捉えている。
雑詠-西池冬扇・選
雷が出羽三山をころげけり
兵庫  木村美智子
出羽三山は修験道の山である、月山、羽黒山、湯殿山の総称。これら三山の上空を雷が転げ回っているというという趣であるが、「ころげをり」ではなく「ころげけり」と表現したところが、単に転げ回っているというイメージでなく今ころげて雷が落ちた、という感じを表して面白い。
空豆やおかめひよつとこ踊り出る
愛媛  圡井美恵子
空豆を剥いていた時のイメージであろう。まさに空豆はおかめやひょっとこのように莢から転がり出る。ついでに加藤楸邨の〈天の川わたるお多福豆一列〉を思いだしてうふふふふと一人笑いをしてしまうのは私だけではあるまい。俳句は様々な言語空間で共振して楽しさを生じる。
黄金のほこり飛ばして麦刈らる
埼玉  小林康男
コンバインによる刈り取りだろうか。広大な黄金に稔った小麦の畑。キラキラと金色の粉を撒き散らしながら麦を刈り取っていくコンバイン。そのような景が浮かび、収穫の喜びが「黄金」という語で、また「ほこり」という語で臨場感が生じる。読み手まで労働の喜びが共感される。
雑詠-原 和子・選
俳論を収めて食す湯引き鱧
愛媛  後藤 郷
一筋縄には行かない俳論は、俳句に対して真摯であればあるほど時としてはげしい修羅場になる。しかし、その場をほどほどに頃合を見て収めたのが「湯引き鱧」。何とも洒脱な一句。関西では祭りの折などよく食される鱧料理。その調理は繊細。「下五」の捌きの見事さを評価した。
今のこと今成さねばと蟻走る
島根  布野想夕
前後裁断という教えがあるが、今を大事にということは、年を取れば取るほど心したいもので ある。「上五」「中七」は作者自身の率直な思いと推察するが、思いだけでは俳句は面白くなく、 勤勉さを代表する蟻を一句の要として登場させている。思いが生き生きとしてくる所以である。
田を植ゑて近江いよいよ水の国
愛媛  境 公二
淡水湖・琵琶湖をめぐる近江はよい水に恵まれ、まさしく水の国。そこで収穫される近江米はこの地方の自慢である。俳句は国褒めからはじまるが、近江への最高の挨拶句として挙げてみた。田を植えてこその水の国、風土のよろしさが余す所なく詠まれそこに広がる景観に幸せを感じる。
雑詠-山田佳乃・選
吊忍すぐ昼となる日曜日
福島  阿部 弘
吊忍は忍草を色々な形にし、軒から下げて涼を呼ぶものである。忙しい毎日を過ごし漸く日曜日を迎えて、涼しげな窓辺に寛いでいるのだが、気が付けばもう昼である。ゆっくりしている時間もやはり過ぎ易い。そんな実感に共感を呼び、「吊忍」と「日曜日」の取合せが絶妙である。
楽しみに残せる菓子の黴びにけり
三重  鈴木良一
一番先に好きなものを食べる子と残しておく子がいる。この子は後者で、引き出しの隅に隠しておいた大切なお菓子がいつのまにか黴びて食べられなくなってしまったのだ。その残念さがしみじみと伝わってきて、笑えるような可哀想なような気持になる。日常の中の黴の景である。
げぢげぢの小波立てて走りゆく
東京  栖村 舞
蚰蜒は姿形も名前も気持の悪い虫である。とはいえ小虫を捕食するので益虫らしい。刺すこともなくさわさわと走っていくだけなのだ。小波立てて走るという措辞で蚰蜒げじげじに詩情を感じさせたことがユニークである。一寸の虫にも五分の魂という虫への優しさのようなものも感じる句。
兼題
選者:大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)
今月の兼題…【太】
兼題-大高霧海・選
原始女性は太陽なりし夏帽子
愛媛 境 公二
太陽もゆらぐ殺戮原爆忌
広島 別祖満雄
太古より愚直貫く海鼠かな
大阪 石川友之
兼題-高橋将夫・選
おほかみと蛍と兜太散楽さるがふも
京都 甲斐惠以子
遠足の保母は聖徳太子なり
大阪 竹中幹子
太箸をすべり落ちたる四計かな
大阪 熊川暁子
兼題-田島和生・選
牧牛も蓬摘む子も太りじし
愛知 小松 温
藷挿すや船の太笛昼を告げ
長崎 坂口かづさ
神の田に玉苗くばり太鼓打つ
大阪 木村良昭
兼題-田中陽・選
氷旗太平洋の風まとも
兵庫 井上徳一郎
亀鳴いて死ぬ気がしないと兜太言う
鹿児島 押 勇次
夏休み太宰治に落ちてゆく
北海道 武田 悟
兼題-中西夕紀・選
祭太鼓地鳴となりて届きけり
長崎 梅野ヤヱ
太き腕たくし上ぐれば神輿瘤
東京 矢作十志夫
太筆で塗る闘鶏の化膿止め
鹿児島 内藤美づ枝
兼題-名和未知男・選
桃太郎を読めば泣く子や星月夜
神奈川 小藤博之
太箸は父の手作り肥後守
福岡 山本みやび
樺太の文字ある地図や渋団扇
兵庫 井上徳一郎
兼題-能村研三・選
完璧はつまらないから心太
京都 名村柚香
太鼓打つ視線青嶺に身を浪に
栃木 中村國司
木の実独楽太古の音を刻みおり
大阪 坂本タミエ





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