●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2016年7月号 ○
特   集
阿久悠の世界
時代を駆け抜けた言葉たちー阿久悠作詞13曲/エッセイ川中美幸 他
特別作品50句
青柳志解樹
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、「俳句の『読み』を読む」ー岸本尚毅、他
セレクション結社
「くぢら」中尾公彦
俳句界NOW
松本三千夫「末黒野」
甘口でコンニチハ!
木村草太(首都大学東京教授)
特別作品21句
今瀬剛一 井上康明 関森勝夫
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
河内静魚、山尾玉藻(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
地震悼むどの凧も白一色に
鹿児島 内藤美づ枝
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
若布干す浜の日和を山にまで
埼玉 福田啓一
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
入学や天地無用の荷を送る
愛知 今牧俊治
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
春田まで合格の声飛んでくる
茨城 林 秀峰
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
焙烙の胡麻よく爆ぜて春隣
熊本  加藤いろは
素焼きの平たい土鍋で胡麻を炒っているのである。その胡麻がぷちぷちしきりに爆ぜる。もう冬もすぐ終り、春が隣に来ている。そのような温かい日の光景が、胡麻がよく爆ぜる様子で佳く描かれている。加藤いろはさんは熊本にお住まいである。御無事を祈っている。
月山のうつすら見ゆる雛の街
山形  鈴木花歩
月山の麓の町には江戸の雛を大切に保存している家々がある。三月の節句には、そのような雛を飾って旅人達に見せてくれる。この街からまだ雪で真白な月山が遠くに見える。古雛を中心に雛祭をしている街に見える月山、どちらも実に美しい。
雪消えて人より猫の多き村
青森  福士信平
青森はどこも雪が深い。春になり雪が消えてくれる日を待ちに待っている。その日が来た。喜んで外へ出てみると、近所の人々も出ていた。でもそれよりずっと多く猫が喜んで飛びまわっていたのである。寒がりの猫が雪が消えたぞと、方々から集って来た様子が面白い。
雑詠-稲畑廣太郎・選
春愁や片づけられず捨てられず
福島  星野満月
卒業、入学、転勤、転居等、春は年度替りということで、色々片付けをするシーズンである。又「大掃除」という季題も春であり、家の掃除をしておられるのだろう。不要になったものがどんどん出て来るが、何か愛着があったりして、そんな心持を見事に季題が引き立てている。
地球より片隅を借り野に遊ぶ
群馬  深沢頼子
○ピクニックの意味もある春の季題「野遊」は、その言葉の響きからして何かうきうきした気分にさせられる。まるで人間は地球に住まわせて頂いていて、その中の一部を借りているような表現により、楽しい気分とは別に大自然、ひいては超自然にまで及ぶ感謝の念が伝わってくる。
恋猫のさやあて日付変りけり
栃木  山口 勝
猫の恋の季節は、所かまわず、時間もかまわず、その修羅場が彼方此方で見られる。勿論人間が一部始終付き合っているわけではないのだが、その妖しげな声は何処からとも無く聞こえてきて、嫌いな人にはたまらないだろう。それが深夜にまで及んでいる。猫の生態がユニークである。
雑詠-茨木和生・選
石牡丹活断層の海に咲く
沖縄  安井千佳子
活断層は日本のいたるところに走っている。もちろん海の中だって例外ではない。このあたりには活断層が走っていると聞いている沖縄の海に潜ってみると、石牡丹、すなわちイソギンチャクの花が咲いている。こんな美しい海底に活断層が走っているなんてと疑ってみる。
魚は氷に上り俳人野に出づる
三重  池田緑人
「魚氷に上る」が季語で七十二候の一つ、魚は氷の上に躍り出るという意。日にちとしては立春後十日から十五日ごろ。さてこのころ、俳人ならどうするだろうと考えて、きっと野に出て吟行を楽しむだろうと結論を出した。冬の間我慢していた吟行だけに喜びにあふれる。
*隧道に消ゆ遠足の最後尾
石川  かくち正夫
四、五十人ほどの遠足だろうか。賑やかにやってきた遠足の列が暗い隧道のなかに入っていった。始めに入っていった子どもが、あーとかおーとか声をあげてその反響を楽しんでいる。そんな遠足の最後尾も隧道の中に消えて行った。先頭の賑やかな声はもう隧道を抜けている。
雑詠-今瀬剛一・選
吊橋は風湧くところ木の芽晴
島根  東村まさみ
「吊橋」の感じをとてもよく描いている。「風湧くところ」という表現が効果的なのである。山から山へ空中を漂う様にかかっている吊橋には確かに風を感じる。この風によって橋は揺れたかも知れない。辺り一帯に芽吹く木々、「木の芽晴」という季語が作品を色彩的にしている。
門も無く塀もなく住み朝桜
熊本  荒尾かのこ
「門」や「塀」があると家そのものは落ち着いて感じられることは確かだ。ただそれと同時に多少の疎外感めいたものも私は感じる。作者の家は門も塀もなく、桜の花が満開になっているという。つまりは出入り自由。明るく開放的で、どこか人懐こい作者の人柄も感じられて快い。
春大根灯台が見え海が見え
神奈川 矢橋航介
こうした叙景的な作品も私は好きである。春大根を起点として、大きな情景が開けている。それを一口に「灯台が見え海が見え」と言い切っているが、この言葉の並べ方もいい。先ず灯台が目に入り、そしてその果てに大きな海が開けていた。一幅の絵を見る様な長閑な広がりを感じる。
雑詠-大串章・選
海底を庭先と言ふ鮑海女
石川  かくち正夫
海底を庭先と言ったところが如何にも鮑海女らしい。長年海に親しんできた海女さんであろう。石川県では鮑の解禁日は何時頃であろうか。私の住む千葉県では大体五月初め、その解禁日に川津漁港に見学に行ったときには鮑舟がひしめいていた。解禁日に合わせ帰郷する人もいると聞く。
本復の旅や菜の花咲き満ちて
宮城  髙宮義治
○「本復」とは病気が完全に治ること。治療の甲斐あって大病(又は大怪我)が全快したのである。その喜びを胸に旅に出ると、電車の窓から輝くばかりの菜の花が見える。「咲き満ちて」と言ったところに、本復の喜びが溢れている。作者はその時、命の尊さを改めて思ったに違いない。
永らへて春は名のみの町に住む
北海道 井上映子
立春は大体二月四日頃だが、寒さはまだ厳しい。有名な「早春賦」の第一節には「春は名のみの風の寒さや」とあり、第二節には「今日も昨日も雪の空」と出てくる。作者の井上さんは北海道在住であるから、「春は名のみ」の実感は殊に強いだろう。寒さに負けず長生きして頂きたい。
雑詠-角川春樹・選
霾るやコーラの瓶の向かう側
広島  涼川華生
「霾る」とは、春の黄砂現象のことである。この季語に対して、「コーラの瓶の向かう側」という措辞をもってきた。掲句において、「コーラの瓶」は、戦後日本の取り入れた欧米文化の象徴であろう。時間的奥行きのある作品。
*海荒れて縄文杉が芽吹きだす
栃木  島 杜桃
縄文杉は、屋久島を代表する巨木で、推定樹齢は二千~七千二百年に及ぶという。数千年を生きてきた縄文杉の生命力、神々しさを、上五「海荒れて」という措辞がいっそう力強く引き出している。
ポケットに一円玉や春コート
徳島  錦野絹子
春のコートは、冬のものに比べると、色彩的に華やいだ感じがあり、軽やかである。春コートをまとう心の弾み、春到来の喜びといったものが、ポケットに見つけた一円玉を通じて軽快に語られている。
雑詠-岸本マチ子・選
出稼ぎのダンプの窓の紙雛
埼玉  大熊三郎
○多分小さな女の子の紙雛であろう。お父さんのダンプに「飾ってね」と懇願したのであろうその顔の愛らしさが目に浮かぶ。お父さんはそれをお守りの様に飾った。強い絆に胸がほのぼのとする。
ものの芽の地球も少しふつくらと
熊本  石橋みどり
この所、地球はもう駄目かもなどと、悲観説の中、春に萌え出るもろもろの芽の、時節をたがわぬ、いきいきとした息吹に救われる。そして、「地球も少しふつくらと」がとてもいい。なにより熊本の人であればこそです。頑張ってください。
*大声に風を読み合ふ野焼かな
愛知  井村晏通
どう風を読むか、とても大事な事に違いない。いま南南西の風とか、北が強くなって来たとか、大きな声の飛び交う中、火はぱちぱちと燃え盛る。一瞬の油断も出来ない。そんな男たちの臨場感が炎のように伝わってくる。
雑詠-古賀雪江・選
跳ね馬の雪形みえて活気づく
新潟  中井由美子
「雪形」は春になっても解けない残雪の事である。冬の間積もっていた雪が解け始め、その具合によって跳ね馬の容に残ったのを見て元気が出たと。この雪形の具合で、田植の時期を決めたり、農の様々な目安とするという。農村地帯、山岳地帯では雪形は春到来の証である。
猛る火に迎へ火放つ野焼かな
栃木  三浦昌子
早春、一年の農事の始めとして、新草をよく生えさせるために野を焼く。激しく燃え盛る火を反対側からの点火で、その勢いを強めて一気に焼き尽くそうとした。旅の車窓より一村をあげて野を焼く遠景や、畦を煙が這っているのを見る事がある。春の到来を強く感じさせるものである。
囀の切れ目切れ目に風を聴く
高知  高橋宣彦
暖かくなると、春を告げる鳥の歌声が山野や禽舎などに溢れる。求愛や縄張りを知らせる囀りなどさまざまであるが、繁殖期にそれは最高潮に達する。そんなひっきりなしの囀りの切れ目に風の音が届く。春の到来を喜んでいる作者の気持はそんな風音にも聡くなっていることであろう。
雑詠-坂口緑志・選
風車風ごと買うて行く子かな
神奈川 盛田 墾
その風車かざぐるまは、風を受け、回りながら売られていたのであろう。買うときも、買って、その子の手に移ってからも回りつづける風車。回りつづけるのは、風ごと買ったからなのに違いない。メルヘンチックな楽しい作品である。
暮れ泥む梅雨の夕焼や沖縄忌
東京  阿萬英俊
沖縄忌、沖縄慰霊の日は六月二十三日。太平洋戦争の末期、沖縄は日米の最後の決戦地となり、多くの民間人が亡くなった。昭和二十年のこの日、沖縄の日本軍は壊滅した。多くの犠牲者を悼むかのように、夕焼が暮れ泥んでいるのである。
鳥雲に人数足らぬ草野球
神奈川 安室敏江
日本で冬を過ごした鳥たちが北を指して飛び立ち、雲の彼方へ消えようとしている。そんな時期、草野球のメンバーが揃わないという。メンバーの中にも、それぞれ参加出来ない種々の事情があるに違いない。そんな中でも、様々な工夫をこらしつつ、草野球は始まるのである。
雑詠-佐藤麻績・選
春暁や攻め焚き続く登り窯
福岡  柿原由美子
登り窯は陶磁器を焼く窯である。山麓の傾斜に沿って粘土で階段状に築き、下室からだんだんと上室へ焼き上げていくが、上室では下室の余熱を利用する。この一連の作業には薪を用いて焼けきらぬうちから懸命の作業を行う。作品にも緊張感が表出されている。
石鹼玉歪にれてまるく飛ぶ
東京  矢作十志夫
石鹼玉は、細い管の一方から吹いて気泡を作る。先ず吹いた瞬間は気泡が歪に生まれ、更に空中に飛び出てふわふわと舞う時はまん丸い玉状になっている所を表現された。この物理的現象を正確に述べるだけでなく、更に物事の真理を考えさせる作品としている所がお手柄と言える。
逃げ水や邪馬台国の在り処
大阪  西田唯士
逃げ水は陸上に起こる蜃気楼の現象。昔は草原などで遠くに水があるように見え近づくと逃げてしまう幻の水と考え、武蔵野名物と伝えられた。現代に転じると何処に存在したか分からない邪馬台国を追うことにも似ていると作者は伝えているのかもしれない。季語が生きた作品。
雑詠-鈴木しげを・選
漁りの湖族の裔や初しぐれ
滋賀  遠藤憲司
琵琶湖の西南部、大津堅田は古くは堅田衆といって琵琶湖の自然を生活の糧としてきた湖族と呼ばれる集団があった。今もその末裔が湖の漁をして暮らしているのだろう。初しぐれにこの地を愛した松尾芭蕉の面影が揺曳ようえいする。漁り(すなどり)の言葉のうつくしさにひかれる。
紙袋好きな子猫を貰ひけり
山口  御江やよひ
恋の猫はときにすさまじいが猫の子はにくめない。この子猫は紙袋がことのほか好きなようである。やや大きめのデパートの紙袋であろうか。自分のねぐらのように出たり入ったり跳びはねたり。そんな子猫になつかれてしまった猫好きの作者。一にも二にも貰い受けることに。
*大声に風を読み合ふ野焼かな
愛知  井村妟通
大がかりな野焼きの景が見えてくる。消防隊を侍らせて行うこともある。火を放つ際、風向きをしっかり把えておかないと火勢をコントロール出来ない。作業は経験がものをいう。中七の「風を読み合ふ」にそのことがよく表現されている。
雑詠-辻桃子・選
かと言ひて一枚脱げば春寒し
大阪  森田蓉子
誠にこの句の通りで、春もいよいよ深まり、暑いぐらいかと思って一枚脱いで外に出てみれば、たちまちに寒くなって、一枚脱いだことを後悔する。春めいてきたからと言って、すんなりと暖かくはならないものだ。省略をきかせた単純な言い回しが、いかにも春寒の感じを伝えている。
鷺立つや草焼きの火の迫りきて
大阪  篠原寿美子
春先、野や土手の草を焼き払う草焼き。鷺が立っている川や水辺の背後に、その火が迫っているというのだ。鷺は、迫り来る火を知っているのか知らないのか、悠然と立ち尽くしている。絵画的で、急迫した鮮明な像が思い浮かぶ。鷺の白と草焼きの火と、色彩的にも鮮やかだ。
手秤でひさぐたかんな竹の籠
大阪  渡辺美紀代
筍は鮮度が命だ。筍売りは、竹の籠に入れられた筍を無造作に手に持って、形や重さを手で瞬時に見分け、これはいくら次はいくらと値を言って売っている。客もまわりに集まってきて、次々に掘りたての筍を買っているのだろう。「手秤」が、そのスピード感を伝えている。
雑詠-夏石番矢・選
もっともっと鶯下手に鳴くがいい
愛知  梅田昌孝
松尾芭蕉たちの唱えた「俳諧自由」は現代の俳句では紋切り型の不自由へと劣化した。この一句、笹鳴きの下手さからの上達を鶯に望む常識から解放され、稚拙な鳴き声を高らかに賛美している。俳句もまた中途半端な綺麗ごとでなく、もっともっと「下手に詠むがいい」とお勧めしよう!
海荒れて縄文杉が芽吹きだす
栃木  島 杜桃
雄大な空間と時間をとらえた秀句。選者は台風三つが過ぎ去った屋久島の縄文杉を観たことがある。数千年を生きた縄文杉は、枝や幹にこれまで幾多の損傷を受けてきた。しかし、芽吹く生命力をたくましく保ち続けている。海が荒れるから、すぐに対抗して芽吹くまでのふてぶてしさ。
レクイエム凹んだままの春氷
東京  宮 沢子
誰かを喪った悲しみを暗示的に詠んで、余韻深い一句。厚くもない春の氷が、中央部が解けたのか、「凹」の字のように窪んでいる。それがそのまま維持されている時間の停止感に、亡くなった人のありさまや作者の悲しみが託されている。全体にすっきりとした清新さが漂う。
雑詠-西池冬扇・選
隧道に消ゆ遠足の最後尾
石川  かくち正夫
昔の遠足は徒歩だけ。途中に隧道が有れば大声で反響音を楽しんだ。作者はそのような記憶を思い出しながら列の最後尾を眺めている。だが、列の最後尾が隧道に消えていく光景には、何かしら異次元の世界に人が飲み込まれていくような怖さがある。倒置しただけの平明な構文が良い。
おみくじの捩ぢ込んである春火桶
京都  奥田まゆみ
火桶や炉には春になると、忘れ去られたような独特の趣がある。お御籤を捩じ込んであるのはたぶん灰の中だろう。作者のちょっとした興味をひいたのである。春火桶を下五に据えて、一挙に一章で仕上げたことで、お御籤に対する余計な詮索を読者はあれこれしなくて済み、心地よい。
木の芽風ピエロの鼻の痒そうな
東京  坂さつき
鼻にかぶせた大きな赤い玉、白い顔大きく塗った口、典型的なピエロの顔を想像する。たぶん天気の良い日の公園の大道芸人だろう。上五に「木の芽風」とあり、木の鼻のピノキオを想像することもあろう。「鼻の痒そうな」と表現したことで、イメージのリアリティーが俄然増大した。
雑詠-原 和子・選
兜太武甲ありて秩父の山笑ふ
埼玉  清水由紀子
句柄は一見男性的であるが女性の句。金子兜太氏は俳壇での発言のみならず、ご自身の戦争体験からの平和を願う行動力は一際力強い。春の芽吹きをはじめた生気に満ちた山容。まさに、秩父を代表する武甲山と並ぶ兜太氏、その存在の大きさが季語の認識の中でまぶしく捉えられた。
北窓を開けて番屋の暦剝ぐ
北海道 小野恣流
冬の間閉めきられていた窓が、待ちに待った春の到来に開かれる。番屋は生活の拠点。先ず、暦を剥ぐところからはじまり、日付を取り戻す作者の息遣いが聞こえてくるようだ。他人事ではない自分と共にある俳句、変化の中で生き生きと風土が詠み込まれている。
凍滝に染み入る子等の神楽笛
神奈川 沼田樹声
滝はその勢いを愛でて夏の季語となっているが、春夏秋冬それぞれの季節に滝本来の感情が現れ語りかけてくる。透徹した凍滝に染み入る子等の笛の音が実に美しく響いたのであろう。祭儀に奏する神楽が子等に受け継がれる土地の風習がきびしい凍滝に集約されていくような気がする。
雑詠-山田佳乃・選
しばらくは膝に語りて雛納
佐賀  大石ひろ女
雛祭が終わるとすぐに雛を片付けないと娘が嫁に行き遅れるなどと言われる。もうそんな心配もすることが無くなったのかもしれない。雛祭りの様々な思い出を嚙みしめながら、ぽつりぽつりと一人語りをしている姿に惹かれる。膝に語る、という措辞が秀逸。
もの言はぬ母に紅引く雪しんしん
福岡  山邉さなゑ
哀しい唄のような調べの句である。最後の死化粧の紅を引くとまだ眠っているような母の顔に哀しみを深くする。多くを言わず、「もの言はぬ」という一言で様々なことが語られている。下五の「雪しんしん」という静けさがきりきりと胸に響いてくる。
*光る泥握つてをりぬ蛙の手
埼玉  中野博夫
お玉杓子がいつしか手が生え足が生え蛙となる。その手には泥を握るという機能が備わっている。当り前のようだが改めて言われると新鮮な驚きが伝わってくる。しっかりと対象を見られているからこその写生と言える。ぬらぬらと光る泥に蛙の濡れた皮膚も感じさせて印象的な一句。
兼題
選者:大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)
今月の兼題…【天】
兼題-大高霧海・選
花に座し天下国家を憂ひけり
東京 矢作十志夫
八月や焦土の天地音もなし
広島 甲 康子
冬天に荒鷲の君散華せり
岡山 小路広史
兼題-高橋将夫・選
蝸牛葉つぱの先の天と地と
群馬 山田越風
天井の守宮が語る沖縄戦
沖縄 真喜志康陽
気は天へ水は地に満つ空海忌
千葉 上原 閃
兼題-田島和生・選
天平の甍を越えて初蝶来
大阪 藤なぎさ
天主堂仰ぎて村の土筆摘む
福岡 宮辺博敏
天金の褪せし聖書や鳥雲に
熊本 加藤いろは
兼題-田中陽・選
楤の芽は天麩羅がよく独りがよく
岐阜 三田村広隆
天も泣け安保法成りたる九月
三重 池田緑人
天皇の兵の骨無き墓洗ふ
栃木 島 杜桃
兼題-中西夕紀・選
韋駄天の弟の忌や春の雷
岐阜 片山あや女
晴天三日空も燕を待ちゐたり
愛知 石井雅之
天職のするりと逃げて目刺焼く
群馬 武藤洋一
兼題-名和未知男・選
みんな天使みんな天才いちねんせい
神奈川 神野志季三江
一壺天囲炉裏二つの山暮らし
東京 菊地雅子
受胎告知の天使の翼風光る
北海道 塩見俊一
兼題-能村研三・選
木遣一声天まで響く御柱祭
長野 岩本隆子
たかんなの天をも覗く勢ひかな
東京 関根瑶華
ほととぎす天に音符を放ちけり
神奈川 大木雪香





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2016年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月| 1月
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