●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2016年5月号 ○
特   集
フォト俳句を楽しむ
浅井愼平、中谷吉隆、森村誠一、石田郷子、田島和生、鳥井保和、鶴岡加苗、神野紗希
特別作品50句
黛 まどか
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、「俳句の『読み』を読む」ー岸本尚毅、他
セレクション結社
「鹿火屋」原 朝子
俳句界NOW
高﨑公久「蘭」
甘口でコンニチハ!
松本侑子(作家、翻訳家)
特別作品21句
辻田克巳、櫂未知子
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
朝妻力、山尾玉藻(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
日本海怒濤明かりに鰤の糶
福井 木津和典
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
陣痛やオリオン仰ぎ車馳す
香川 中島進
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
三日はや物干して妻出勤す
広島 津田和敏
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
しんしんと灰になりたる雪夜かな
神奈川 小藤博之
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
しづかなる蹴鞠の庭や落葉散る
愛知 冨田夏子
蹴鞠は皇極天皇の頃、中大兄皇子(後の天智天皇)が法興寺で行なったと言い、十二世紀頃に盛んになった。松、柳、桜、楓の木を四隅に植え、それぞれ木の下に二人ずつ立つ。松の木の下に立つ最も熟練した人が蹴り始める。蹴鞠が行われる庭に、静かに落葉が散っている光景が佳い。
あかときの星影蔵す霜柱
東京 横田眞理子
朝早く庭土に白々と霜柱が立っているのが見える。まだ空には星影が残っていて、霜柱はその星影を映しているようである。あかときの霜柱が星影を蔵していると表現することに依って、霜柱の清冽な白さを強調したところが優れている。
亡き人の鍵束重し冬終わる
新潟 中井由美子
家の鍵や勤め先の鍵などを束ねて持っていた人が亡くなった。重い鍵束を見ると、その人がこの鍵束を身につけて一生懸命働いていた日々を思い出すのである。特に寒い冬も終わり、ほっとした頃、その人が生きていてくれたらという思いを強くする。しみじみとした味がある句である。
雑詠-稲畑廣太郎・選
艦深く潜航つづく去年今年
愛媛  境 公二
原子力潜水艦のような、長期間海に潜ったまま過ごせる軍艦を想像する。新年を迎えても、世界の海の何処か、いや結構彼方此方の海底には潜水艦が潜んでいて、軍事活動をしているのであろう。物騒な世の中と言ってしまえばそれまでであるが、新年の季題の斬新な使い方である。
初茜凪ぎて整ふ逆さ富士
神奈川 尾㟢千代一
富士五湖の中でも河口湖は逆さ冨士で有名であるが、正月に此処を訪れた作者なのであろう。初日が出る前、空がだんだん茜色に染まってきていよいよ新年の心が昂ってきた時、湖も凪いで、くっきりと富士山が湖面に映し出された。正月のめでたさが余すところ無く表現されている。
大試験リュックのなかに聖書あり
兵庫  野澤あき
ミッション系の学校を受験して、聖書から出題される問題がある、というよりも熱心なクリスチャンで、受験のお守りとして聖書をリュックの中に入れていると解釈した方が自然なのかも知れない。神の御言葉を座右の銘として大試験に挑む緊張感が、その信仰心と共に伝わってくる。
雑詠-茨木和生・選
餅花の賑やかなこと繁昌亭
大阪 中家桂子
天満天神繁昌亭を略して繁昌亭と呼んでいるが、落語専門の定席。上方落語協会所属の落語家が出演して賑わうが、正月興行ならではの飾りつけ、餅花が仰山に飾られて場内の賑わいを盛り立てている。明るい照明にはえて餅花が美しい。鳴り物入りの落語ならなおさら賑やか。
まだ誰も素顔は知らず雪女郎
大阪 小畑晴子
伝説上の雪の精で色白の美しい女性と思われているが、当然その素顔を見た者は誰もいない。雪国で育まれてきた物語の中の想像上の女性だが、俳句では自在に詠まれている。しかしこの句、「まだ誰も素顔は知らず」と詠んで、読者を一句の中に誘い込んで佳句に仕立てている。
狼の絶えて神の名残りけり
埼玉 鈴木まさゑ
日本狼は明治三十八年に奈良県東吉野村で捕獲されたのを最後に絶滅した。しかし、狼は大口真神として秩父の三峯神社では神として崇められている。また、大口の真神が原は奈良県明日香村にあり、『万葉集』にも詠まれた歌枕の地である。神の名に地名に、狼は残っている。
雑詠-今瀬剛一・選
音もなく日の落ちてゆく石蕗の花
京都 上里友二
「石蕗の花」は「つわぶきのはな」、初冬に咲くその黄色い花は印象的である。この作品は石蕗の花の夕暮れ時の状態を見事にとらえている。「音もなく日の落ちてゆく」という表現からはあたかも生き物のように動く夕日を思う。その夕日に照らされる「石蕗の花」が鮮やかに見える。
朝市のひときは赤き蕪かな
神奈川 和田陽子
活気あふれる「朝市」の情景を「赤き蕪」に焦点を当てて表現している。しかもその赤さをさらに「ひときは」と強調するから、そこから情景が開け、朝市全体に及ぶ。恐らくは全体が生き生きしているのだ。売る人、買う人、どこか朝の新鮮な空気まで感じさせるような作品である。
遭難の碑を頂に山眠る
大阪 石川友之
自然の大きさ、人間の悲しさみたいなものを感じさせられた。頂に残されている「遭難の碑」、その遭難された方は自然の美しさに魅せられて登山したのだ。作者もまた同じ思いで登っている。それだけに遭難された方の思いもよく分かる。周囲の山々はただ眠り続けるだけである。
雑詠-大串章・選
*教へ子の紆余曲折や賀状来る
大分  金澤諒和
気にかかる教え子がいた。就職しても長続きせず、すぐ別の職場に移ってしまう。住所も何度か変わった。ここ数年は音信も途絶えがちだったが、久しぶりに年賀状が来た。急いで追而書を読むと、ようやく定職につくことが出来、結婚もしたという。本当によかった。
枯芙蓉節目節目に人の恩
東京 石口りんご
振り返ってみると、人生の節目と言うべき時が何度かあった。それらを何とか乗り越えてきたのは、節目ごとに「人の恩」があったからである。自分の力だけでは決してここまで来ることはできなかった。その事を忘れてはならない。季語「枯芙蓉」がさり気なく置かれていていい。
降る雪や考は明治の生まれなり
福岡 田島美栄子
亡くなった父は明治の生まれであった。明治生まれの男性らしく、厳しくも優しい父であった。この句は上五に「降る雪や」と置くことによって、中村草田男の代表作〈降る雪や明治は遠くなりにけり〉を思い出させる。草田男の句を重ねることによって、この句は一層奥行を増す。
雑詠-角川春樹・選
滝凍てて無声映画の幕開く
北海道 小野恣流
凍滝と無声映画の取合せに、意外性のある作品である。凍滝の前に立つ作者の感慨を、無声映画になぞらえて描いたものだろう。作者が胸にめぐらせている思いに、ドラマ性を感じずにはいられない。無声映画と言いつつ、音声を読者に強く想起させる。
物言はぬ内に暮れけり枇杷の花
大阪  吉田 喬
枇杷は、初冬に黄色みを帯びた小さな白い花が密生して咲く。高みにひっそりと、精巧な花をつける。作者の一日の夕ぐれに去来した寂寥感と、枇杷の花の情感をうまく配合している。
雪しんしん人魚喰ひたる人死ねず
神奈川 正谷民夫
人魚の肉を食べると不老不死になるという伝説をモチーフにした作品である。「雪しんしん」という情景により、物語や民話が語り継がれていく場面とも取れる。「人魚喰ひたる人死ねず」という断定により、余情が深まっている。
雑詠-岸本マチ子・選
なによりも優しきことば風邪に効く
埼玉 日下尚子
「優しきことば」の中七がとてもいい。どこか具合の悪い時というのは、心も弱っている。そんな時、優しい言葉がどんなに嬉しい事か。たかが風邪などと侮ってはいけない。優しい言葉と同時にしっかりした対策も、お母さんとして、妻として必要かも知れない。
身のうちに狐火飼へる妻ならむ
神奈川 三枝清司
夫という男たちは妻にどうしても太刀打ち出来ない時、そう思ってしまうのかも知れない。狐火などと物騒なもの、優しくされれば飼えるものではない。妻を信じて、優しく時には甘い言葉もかけてあげて下さい。
紅させば五才は若く初鏡
京都  岡井香代子
五歳とはうちうちに見積っています。この間、九六歳のおばあちゃんが「わったあ九十歳どお」と紅をさし嬉しそうに言っていました。初鏡というのはそういうものかも知れない。五歳どころか、十歳も若く元気で大いに頑張って下さい。
雑詠-古賀雪江・選
一瞬に鷹の眼となる急降下
東京 矢作十志夫
鷹は精悍な猛禽である。俊敏で、目指した獲物は逃さない。小形の鳥を見つけたのであろうか、鷹の鷹たる眼に。急降下して鷹はその鋭い大きな鉤爪で獲物を捕らえた。「一瞬の」の措辞は、獲物を見つけた鷹が瞬時に襲う体制を整えた様と、それを捉えた素早さまでを思わせる。
初湯出てももいろ童子抱かるる
千葉 原 瞳子
初湯を浴びた赤子が十分に温まって湯気に包まれて上がって来た。入れる人と、受ける人、手渡しに抱きかかえられ、気持良さそうな、邪気の無い天使のような表情を「ももいろ童子」と詠んだ。この美しい比喩を通して、赤子を囲んで事が運ばれる幸せな一家の様子が偲ばれる。
寒濤の砕けて鴎生れにけり
長野 秦 順子
季節風の強い冬は波が大変に荒れる。ことに日本海では凄まじいばかりで、波の花が飛び、怒濤は大きく立ち上がる。高く砕けた白波のその中から鴎がふっと浮かび上った、その様に一瞬、波の中から鴎が生まれたかのように思った作者である。雷雲の下の暗澹たる日本海の景である。
雑詠-坂口緑志・選
落葉踏む波郷の切字噛み締めて
神奈川 木村みのる
石田波郷は韻文精神の尊重を説き、切字の使用を訴えた。その波郷の作に〈霜柱俳句は切字響きけり〉がある。落葉を踏みながら作句に余念のない作者だが、切字の大切さ、必要性を改めて思い、噛み締めているのである。
*百僧の一揆の如き煤払ひ
大阪 久保東海司
大勢の僧が出て煤払いをするという。大きなお寺なのであろう。それだけの人数と煤払いの箒を持ったその姿を見ると、その昔勢力を誇った僧兵を思い起こし、あたかも一揆に打って出るのではないかと思われるような勇ましさである。
鳥海山の黙を深めて寒に入る
秋田 宮本秀峰
秋田、山形の県境に聳える、標高二二三六メートルの鳥海山。その富士山に似た美しさから、出羽富士とも呼ばれる。冬に入って眠りについていた鳥海山だが、さらに眠りを深め、寒に入ったという。神々しさも美しさも、さらに増したに違いない。
雑詠-佐藤麻績・選
*初大師奈良より筆屋来てゐたり
大阪 中家桂子
一月二十一日、弘法大師の縁日が初大師である。縁日であれば善男善女が参詣する。人々のもう一つの楽しみは様々な出店で、珍しい品が揃うことであろう。奈良墨は有名だが、その奈良の筆屋が来たことに、早速目を止めた作者なのだ。
名水と大書してあり新豆腐
大阪 森田忠夫
豆腐は全国各地に特色のあるものが存在する。いずれも水の良い処のようだ。作者は「名水」と大書された豆腐なら、必ず良質で美味なものに違いないと知っておられるのだ。豆腐をよく知り好物とする作者であればこそ、大書された「名水」が捉えられたのである。
ヒヤシンスボレロ静かに始まれり
千葉 神長網曳子
「ボレロ」と言えばラヴェルの曲が有名である。単調なリズムが続くだけだが、否だからこそ魅かれるこの曲は一度聴いたら誰もが忘れられないようだ。一方、早春に咲くヒヤシンスは明るさや可憐さだけではない花である。ボレロが静かに始まる、その気配と通じるものが確かにある。
雑詠-鈴木しげを・選
福島はフクシマのまま春五度ごたび)
宮城 丸山千代子
平成二十三年三月十一日の東日本大震災から五年の春を迎えようとしている。その被害の大きさは改めていうまでもない。とくに原発事故によっていまだに避難生活を強いられているのが福島の現状である。「福島はフクシマのまま」のカタカナ表記に憤りがこめられている。
朝市や鰤に噛ませし糶の札
福岡 米田 綾
鰤は出世魚の代表格。幼魚からワカシ、イナダ、ワラサ、ブリとなる。全長一メートル近くになるという。掲句は漁港の朝市の情景であろう。店先に並べられた鰤が壮観である。鰤の鋭い口に糶札が噛ませてある。臨場感のある一句である。
*初大師奈良より筆屋来てゐたり
大阪 中家桂子
大師の称号は偉大なる師の意。高徳の僧の敬称。俳句では初大師といえば弘法大師空海の縁日。一月二十一日。「弘法筆を選ばず」とはいえ、能書家空海に因んで古都奈良から筆屋が来ている。当然奈良墨も並んでいることであろう。初大師にふさわしい作といいたい。
雑詠-辻桃子・選
転生のはなしになりて猪の鍋
茨城 いさか小夜
猪鍋ししなべ)は猪の肉の鍋で、牡丹鍋ともいう。また猪肉や鹿肉を食べることを「薬喰」といった。この句では、猪鍋を囲みながらいつしか話題が転生のことになった。猪を獲って食糧とした遠い先祖のことを思い出したか。猪鍋の野性味がそのような話題を導いたのがおもしろい。
左義長の火照りさめたる焦土かな
滋賀 北村和久
左義長は「どんど」「どんどん焼き」とも呼ばれる正月の火祭行事。この句では左義長の火が消え、火照りもさめたときを詠む。燃やし尽くされた焼け跡を「焦土」とした。この飛躍によって、かつての震災や戦後の焦土まで、さまざまに思いの広がる、凄みのある句になった。
点訳の点筆止めて除夜の鐘
神奈川 尾㟢千代一
作者は点字訳に従事している。点筆てんぴつ)は、用紙に点字を打つ先のとがった筆。点訳をしていると除夜の鐘の音が聞こえてきた。思わず点筆の手を休めて聞き入ったのだ。大晦日の夜遅くまで点訳をしていたのは、一日もはやく訳し終えて届けたいという思いからだろう。
雑詠-夏石番矢・選
しばれると彼方に自爆の音がする
東京 清水滋生
〈蝶墜ちて大音響の結氷期 富澤赤黄男〉に似た作風で、冬の季節感に世相を重ねた秀句。北海道の方言「しばれる」を使いローカルで個人的な展開かと予想させながら、今日の全世界的自爆テロへと繋げる巧みさ。凍結に相似の時代閉塞が自爆テロを生み、さらに閉塞が強まる悪循環。
ちちははのなきやすけさよ雪ばんば
静岡 岩田美紀
「ちちははのなきやすけさ」は、単純ながら反語的で含蓄深い表現。父母のいる安泰を前提としながら、父母を含む係累の煩わしさからの解放感を言い、さらにその裏に父母のいない孤独を暗示する。「雪ばんば」は雪虫の別名で、この句ではおそらく父母を亡くした作者の分身だろう。
羽衣のやうに素麺干してあり
兵庫  竹内信子
「素麺」から「羽衣」を連想した感性が光る一句。干された素麺は、なるほど白くて薄い絹布のように見える。そして地上界にしばし掛けられただけで、やがては天上界へと飛翔する天女の美しい衣装。「羽衣」も「素麺」も、古代の渡来人がもたらした文物で、実は予想外に結びつく。
雑詠-西池冬扇・選
煮凝に隠れてゐたる鯛の鯛
大阪 中家桂子
「鯛の鯛」はタイの肩付近の骨、江戸時代からめでたいものとして識られていたそうだ。煮凝は魚の煮汁が冷えてゼラチン状になったものだが、料理としても扱う。そういえば我が家では煮魚が減少したが、他家ではどうだろうか。鯛の鯛が隠れていた驚きと喜びを俳句らしく表現した。
初雪や地下の居酒屋椅子足して
埼玉 掛川重信
雪が初めて舞い降りてきた寒い夕べ。吸い込まれるように階段を下りて入った地下の小さな居酒屋、そこの温かい雰囲気がビビッドに伝わる。句材の良さである。下五で言い切らないところに物より雰囲気を重視したことが感じられ、上五もクラシカルに「や」切れをして成功している。
祭笛櫓の上に隣の子
東京 宇井偉郎
祭は夏の季語とされているが、祭櫓は盆踊をまず想起してしまう。櫓の上でお囃子の笛を吹いているのは、隣の子供だ、というのが句意であるが、自分の息子や孫でないところに、含蓄を感じる。接触の深い農漁村であれば、わざわざ隣の子だというまい、今や祭を継承する子も少ない。
雑詠-原 和子・選
御降りや言霊宿る発句の欲し
福岡 田中一とく
万葉集に「そらみつ大和の国は言霊の幸はふ国」とあるが豊かに栄えるという意味で国の言葉は大事にしたい。発句もまた言葉にかかわる文芸であるからこそ認識は疎かにできない。「お降り」は正月三が日に降る雨、雪を指すが、その気配には改まったものがあり発句への願いも一入。
身の内を水のごとくに新走り
福岡 中村友耕
「よい酒は水のごとく身内を通る」とは酒をたしなむ人がよく口にするところだが、老子の「上善じょうぜん)は水のごと)し」からきている。最上の善は水のようなものであるということであるが、実にうまく酒に託したもの。その年に収穫した米で醸造した酒は新鮮で、まさに走りの気分を促す。
月冴ゆる道を帰りぬ夫託し
福島 星野みつ子
本来共に過ごす筈の夫を託しての帰り道を詠まれているが一抹の安堵と裏腹に落ち着かない寂しさが伝わる。イメージに対する季語の効用には計り知れないものがあるが、「月冴ゆる」に作者の心情が集約され、動かし難い。日常の機微の中でのこの「月冴ゆる」は一会のものであろう。
雑詠-山田佳乃・選
*寒蜆石の音して量らるる
三重 塗矢智惠子
蜆は春の季題であるが、寒中に獲れる蜆は滋養があるとされ昔からよく食されてきた。貝殻の音を「石の音」と一言で表現されたところが巧い。石のような固い音に寒の季節感も感じさせる。無駄な言葉もなく、すっきりと表現された一句である
とんどの火猛りて人の皆小さし
島根 八嶋昭男
とんどは全国どこででも見かけるけれど、寒い時期に火を扱うのは注意がいる。時に怖ろしいほどの勢いを得る。焚火もできなくなった昨今では一番身近な火となってきたのではないだろうか。高々と燃え上がり猛る焔は人は制御できない。そんな人間の小ささを感じられた作者。
*百僧の一揆の如き煤払ひ
大阪 久保東海司
頬かむりをして僧侶や門徒が一斉に煤払いをする光景はまさに一揆の如くである。年末の西本願寺などでは朝から総出で本堂を清めていく。ばたばたと畳を叩き合うところは、まるで何かと戦っているようだ。どこかユーモアも感じられて、煤払いの様子が眼に浮かぶような一句。
兼題
選者:大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)
今月の兼題…【座】
兼題-大高霧海・選
皇居前広場に座しぬ終戦日
東京 腰山正久
廃帝の玉座や寒し紫禁城
愛媛 境 公二
寒立馬佇つも座るも雪の中
青森 田端千鼓
兼題-高橋将夫・選
寒椿落ちて一座の花形に
東京 山田千夏
恵方道ガードレールに座る猿
大阪 竹中幹子
家の内神の座いくつ鏡餅
静岡 北邑あぶみ
兼題-田島和生・選
夫の座に夫なき月日牡蠣雑炊
埼玉 田村みどり
野遊の切株に座す昼餉かな
千葉 塩野谷慎吾
露座仏の螺髪に初日とびつきぬ
千葉 露木伸作
兼題-田中陽・選
去年今年戦へ向かふ座標軸
大分 金澤諒和
秋田にはわらび座ありと山笑ふ
秋田 佐藤幸子
海苔巻を掌に座らせて啄木忌
大阪 西向聡志
兼題-中西夕紀・選
高く見ゆ受験の朝の時計台
大阪 菅野 強
はすかいに夫の背見ゆる夏期講座
徳島 稲井和子
オペラ座を出で高ぶりの息白し
兵庫 内田あさ子
兼題-名和未知男・選
白朮火おけらび)の南座過ぎて疎らなり
東京 矢作十志夫
大根干す典座の僧へ遠会釈
岐阜 廣瀬あや子
乙女座で照れ屋でバレンタインの日
神奈川 神野志季三江
兼題-能村研三・選
よき光よき風ありて仏の座
東京 関根瑶華
人生座スカラ座はるか去年今年
埼玉 竹田圭子
畳目のきりり締まりて初座敷
熊本 石橋みどり





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2016年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月| 1月
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2011年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
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