●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2016年4月号 ○
特   集
桜に魅せられた俳人、歌人
中西進、錦仁、稲畑汀子、角川春樹、茨木和生、長谷川櫂、原和子、古賀しぐれ、藤木俱子、名村早智子
特   集
現代俳句の社会性
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、「俳句の『読み』を読む」ー岸本尚毅、他
セレクション結社
「連衆」谷口慎也  ⇒本文
俳句界NOW
鈴鹿呂仁「京鹿子」
甘口でコンニチハ!
斎藤美奈子(文芸評論家)
特別作品21句
鳥井保和、長島衣伊子、河野薫
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○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
朝妻力、山尾玉藻(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
冬たんぽぽメソポタミアは戦場に
東京 徳原伸吉
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
方舟で旅立つ心地白障子
神奈川 鳥海悦子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
老い易し今朝は落葉に躓きぬ
愛知 大島国康
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
海女浮上すれば初雪舞ひをれり
愛媛 境 公二
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
竜泉寺下谷羽子板市さびし
東京 中村わさび
樋口一葉の『たけくらべ』の舞台となった下谷(現東京都台東区の一地区)の光景である。年の暮には羽子板市が開かれる。昔は大変にぎやかであった羽子板市も竜泉寺の周りも、今はすっかりさびれてしまった。一葉が活躍していた時代を思い出しながら現在を描いたところが佳い。
まだ散らぬ法科の銀杏青邨忌
茨城 國分貴博
青邨忌は十二月十五日、その山口青邨の名句〈銀杏散るまつただ中に法科あり〉を思い出しながら忌を修しているのである。青邨忌の頃になってもまだ東京大学法学部あたりの銀杏が散っていないと詠ったところが佳い。「銀杏散る」の句碑が三四郎池の近くにあるので見ていただきたい。
たかだかと羽子板市の昼の月
東京 磯貝尚孝
この句の羽子板市は浅草寺境内のものであろう。十二月十七日から十九日にかけて行われる。その羽子板市の雑踏の中から空を見上げた時、高々と浮んでいる昼月を見付けたのである。にぎやかな羽子板市に対して、静かな昼月を描いたところが佳い。
雑詠-稲畑廣太郎・選
日記買ふ古来稀なる年を生き
愛知 山口 桃
作者かどうかは別にして、七十歳の古稀を迎えた方の句である。現在ではこの年齢はもう長寿とは言えなくなったのかも知れないが、やはりこの歳まで元気で居られたという喜びが伝わってくる。そして又日記を買って未来を元気良く目指して行くという明るい意気込みが感じられる。
駅を出て一人一人の聖夜かな
大阪 やまぐち若葉
欧米の人であれば、この日は並べて聖夜のミサに与るために教会に向かうのかも知れないが、日本人であれば、駅でケーキを買って家路を急ぐお父さん、高級レストランを予約したカップル等々、聖夜の過ごし方はまちまちなのではないだろうか。そんな世相が楽しく表現されている。
ストーブやどこよりほてる手の輪ゴム
神奈川 松永きよ子
主婦に多かったのではないかと思うが、昔は手首に何本も輪ゴムを巻いて、何か突発的に束ねる必要の物が出た時などに使っていたのを思い出すが、そういえば現在あまり見かけなくなった。目立たないだけなのかも知れないが、何かレトロな冬の佇まいが豊かに見て取れる。
雑詠-茨木和生・選
馳走とてわにの煮凝り出てきたる
東京 髙野虹子
「わに」とはさめの古語だが、私は広島県三次市で「わに」料理を食べたことがある。刺身のほかにもちろん煮凝りも出て来た。「わに」は何よりのご馳走だと言われて、おそらく驚かれたのだろう。「わに」といわれて連想するのは鰐だからである。「わに」は地方に生きている古語である。
*鷹匠の拳を鷹のあやまたず
大阪 小畑晴子
京都の二条城で行われた諏訪流放鷹術の実演を見ての句である。鷹狩の鷹を育てるための訓練であるが、放たれた鷹がしばらくして、鷹匠の突き出している拳に戻ってくる場面に感動して、的確に描写した。戻って来た鷹がご褒美に鶉の肉片を貰っている場面も浮かんでくる句である。
弱くとも真直な光冬桜
香川 福田久人
冬桜は小ぶりの白い花で一重咲きである。はなやかさはないが、冬晴れの日差しの中で仰いで見ていると、心惹かれる花である。この句、冬の日差しを「弱くとも」と捉え、けれどもその日差しを冬桜に「真直な光」を届けていると見た、その細やかな心づかいに感心している。
雑詠-今瀬剛一・選
月山の裾より晴るる七五三
山形 鈴木花歩
七五三の頃の快い空気の感じられる作品。いかにも明るく大きい。「晴るる」場所を「月山の裾」と明確に言ったところがいいのであろう。そうすることによって、この大意が引き締まったのである。麓を中心にしてその情景は次第に広がり、やがて月山の威容まで見えてきそうである。
待つ人のゐる窓明り牡丹雪
福岡 石井麗子
降りしきる牡丹雪、その中に明かりの点っている窓が一つ見える。それだけでも印象的なのに、作者はそこに「待つ人のゐる」ことを確信している。なんと明るく、温もりを感じる表現であろう。牡丹雪の中、一点遠くに見える明かりを見詰めながら歩く作者の姿が微笑ましい。。
冬桜山の向うの山も見ゆ
大阪 吉丸照司
万象枯れ果てた中に咲く「冬桜」は健気でさえある。とりわけこのように表現されるとその冬桜に一種の淋しさが加わってくる。しかも作者の眼は冬桜にとどまらず、その奥の情景に至っているのである。どこか作者自体の澄み切った心まで感じられるような作品である。
雑詠-大串章・選
*水あやす如くに紙を漉きにけり
兵庫 西村 宏
「水あやす如く」が紙漉きの有様をよく表している。紙漉きでは、竹簀を張った漉桁で原料(こうぞ三椏みつまたの繊維を水に溶かしたもの)を汲み上げ、前後左右に揺すって和紙を作る。その前後左右に揺する有様を、「水あやす如く」と言ったところが一句の眼目である。
仮の世の仮設の寒き仮寝かな
愛媛 境 公二
「仮の世の」と冒頭に据え、 「仮設」 「仮寝」と続けたところが心にしみる。仮の世と分かってはいても仮設住宅の寒さは身にこたえるのだ。一茶の痛恨の一句、 〈露の世は露の世ながらさりながら〉を思い出した。 〈這へ笑へ二つになるぞ今朝からは〉と詠んだ長女が亡くなった時の句。
穭枯れ風の棚田となりにけり
沖縄 安井千佳子
穭は稲を刈り取ったあと切株から出てくる芽、長く伸びて穂になることもある。晩秋の田に拡がった穭には一仕事終えた安堵感も漂う。今やその穭も枯れてしまい、棚田には寒い北風が吹きつけるばかり。緑の風に靡いていた青田や黄金色に輝いていた稲田とは全く異なる光景である。
雑詠-角川春樹・選
富士を向く蟷螂の枯すすみけり
栃木 中村國司
冠雪した富士の大景と、小景の蟷螂のコントラストの効いた作品。枯蟷螂を踏まえて、蟷螂のいのちが枯れていくと把握したところもいい。絵画のような大胆な構図で読者に迫ってくる佳吟である。
冬鷗三本立ての映画館
徳島 蔵本芙美子
心象風景、もしくは懐旧の作であろうか。 「冬鷗」という季語から、水辺や海辺の映画館のイメージが伝わる。名画座で上映される作品を鑑賞して過ごす、作者の豊かな時間が思い浮かぶ。
三面鏡みな雪原となりてゐし
北海道 大橋嶺彦
三面鏡のどの鏡面にも雪原が写りこんでいるという句意である。三面鏡を使っていた人物が不在になって、ただただ荒寥とした雪原を写すのみになったというドラマ性のある作品。作者の心象が色濃く投影されている。
雑詠-岸本マチ子・選
電柱に海抜標示冬ざるる
東京 松尾正晴
電柱に海抜標示があるというのもめずらしい。沖縄というか那覇市では各ポストや郵便局に海抜標示がある。首里城は大体海抜百三十メートル位であろうか。そんなに高くない。海抜標示と何の関係もないようだが、 「冬ざるる」の意外性が奇妙に絡みあっていていい。
鰤起し瞽女の話を聴いた夜
富山 清原洋子
富山で大雪に降り込められた時、齋藤真一の『越後瞽女日記』を読んだ。冬の旅の苛酷さ、瞽女たちの生態と哀感を心熱く語る絵も文章もいい。元気な若い娘さんが二、三尺もある雪をならし、目の見えない姉さん達が手を繫いであとに続く雪の道。生きる事の哀しさが惻々と胸をうつ。
極月の茶房に流るイエスタディ
兵庫 石原糸遊
極月の茶房に「イエスタディ」が流れていたら、それは居心地の良い喫茶店で、コーヒーも極上であろう。 「師走」というより「極月」といった方がより切迫感がある。 「イエスタディ」も効いている。
雑詠-古賀雪江・選
泡立草村ごと山に還りつつ
広島 津田和敏
泡立草はキク科の多年草で、荒地や植生の破壊された場所に侵入、繁殖して大群落を作る。黄色の密に咲く花の群落は辺りを圧倒する明るさである。 「村ごと山に還り」の措辞は、地震禍、水禍などで、人の棲まなくなった村を犯すように闌ける泡立草の様を思わせる。
みな老いて福祉の餠を搗いてをり
福岡 宮辺博敏
年末、区役所の庭で餅つき大会が行われている。搗き手はボランティアの諸氏。曾ては世界を股に活躍した企業戦士達も、みな年を取り、気負いも無く福祉の餅を搗いている。心は平穏である。人生とはかくあるものであろう。哀感をも感じる一句。
機関車の地を鳴らしゆく寒さかな
神奈川 佐藤光子
機関車は客車、貨車などを牽引する目的に使用する鉄道車である、原動機として電動であったり、内燃機関であったりするが、その機関車が地を鳴らして通り過ぎる時に殊更に寒さを覚えたと言う。長々と貨車を牽引する機関車の前輪の響きが聞こえてくるようだ。
雑詠-坂口緑志・選
魚眠洞句集閉づれば秋の水
岐阜 三田村広隆
室生犀星は詩、小説の他、俳句にも手を染めており、 〈秋水や蛇籠にふるふえびのひげ〉というような作品を残している。数冊でている句集の中に『魚眠洞発句集』がある。そんな句集を読み終え、ふと秋の水を感じたのである。心象的なものかも知れないが、心惹かれる作品である。
毛糸編む二眼十指のありがたく
愛知 坂倉公子
毛糸を編むのは、女性にとって大きな楽しみのひとつなのであろう。二つの眼と両手の十本の、指とあり、少し加齢を意識するようになられたのかも知れないが、ご自身の健康に感謝しつつ、毛糸を編む喜びを感じてみえるのである。
古オーバー重き昭和を捨てきれず
三重 渡邊紘男
古くなったオーバーだが、愛着があって、着続けてみえるのであろう。このオーバーには、昭和という時代の様々な出来事や作者の想いが、滲み込んでいるに違いない。あるいは、戦争の記憶や災害の記憶などが重く塗れているのやも知れない。
雑詠-佐藤麻績・選
ぼろ市の昭和を歌ふ鳩時計
神奈川 金澤一水
ぼろ市は、その名の通りさまざまな古物が売られる市である。東京世田谷の旧代官屋敷前で一月と十二月に開かれる。その市で鳩時計を見つけた。それはまさに昭和への懐かしさだ。 「昭和を歌ふ」との表現からは郷愁が立ち上がってくる。
化粧塩ほどの初雪悦びぬ
山形 横道輝久子
雪国に住まう人は、季節がくれば当然雪を待っている。最近の気候の変化は例年通りとはいかないのかも知れない。漸く初雪が降った。それは化粧塩ほどのささやかさである。だが待望の日にはちがいない。やがて雪国の長い冬がはじまる記念日となった。
梟の月ふくろふの森のうへ
茨城 加藤そ石
梟のいる森がある。ほーほーと鳴きごえがする。その森の上に月が出ている。作者は梟の存在を気にかけている。梟は何故か不思議な夢をもたらしてくれる鳥なのだ。 「梟」と「ふくろふ」の使い分けが生きた作品となった。
雑詠-鈴木しげを・選
子宝は八人なりし福寿草
愛媛 池 菊人
作者の母上のことを詠まれたものと解したい。 「福寿草」が新年の季語になっているのは福寿草という縁起のよい名からきている。正月の床飾りの鉢にあざやかな黄色の花が咲いている。母は八人の子に恵まれた。八人の子は皆元気なのであろう。子宝の語がめでたい。
*水あやす如くに紙を漉きにけり
兵庫 西村 宏
紙漉の歴史は古い。一四〇〇年前に日本に伝えられたという。楮、雁皮、三椏などの皮が原料だが、とくに冬場に漉いた紙が上質である。漉槽の紙料液を簀で漉く作業は重労働であり、水を均す技は手練がいる。 「水あやす如く」の比喩は的確である。一句の格調もよい。
片脚に艪を操りて海鼠舟
愛知 井村晏通
海鼠は海底の岩場などに生息する円筒状の動物。真海鼠は冬季が美味とされる。これを採るには長い柄の先につけたやすで突く。岩礁でやることもあるが、掲句は舟を出して艪を操りながら海底を箱眼鏡でのぞくのである。片脚を艪にかかえて舟の動きを微調整する。高度な技法。
雑詠-辻桃子・選
水の面にとろりと日あり枯蓮
愛知 石井雅之
冬枯れした蓮池の景。折れ曲がった茎や枯れ果てた葉や実が無残な姿をさらす水面に冬日が映る。冬日は「とろりと」池に揺れている。 「とろりと」は的確な写生に基づく描写。ほかのどの季節にも当てはまらず、枯蓮の池にしか映らない。スローモーションのように印象深い冬日だ。
エプロンに火の粉飛びくる大根焚
大阪 藤なぎさ
大根焚きは京都の寺院で十一月から十二月に行われる行事。了徳寺の「鳴滝の大根焚き」が有名である。煮た大根を参詣者に振る舞う行事だが、大鍋で炊き込んでいるとき火の粉がエプロンに飛んできたという。 「火の粉」によって大根焚きの湯気や匂いや賑わいまでも感じさせている。
棒術の棒を鴨居に初座敷
広島 大林 實
屋敷の主は棒術という珍しい技を持っている。先祖の誰かがやっていたのかもしれない。その棒が大切に鴨居に渡してある。新年の賀客を迎える初座敷。きちんと片付けられ、蓬萊などが設えられているが、棒だけは変わらず、その場所に存在を示している。古い屋敷全体が彷彿される。
雑詠-夏石番矢・選
鮟鱇もキリストももう降りられよ
埼玉 中村万十郎
売り場に吊り下げられる醜い深海魚と刑場の十字架に晒されるイエス・キリストの類似。いずれも常人から侮られた存在ながら、超越的特性がある。その両者の献身的犠牲に対しての同情と共感、さらには畏敬。原句の「下りられよ」を「降りられよ」に改めた。降ろされた地上は穢土。
自由猫だよ山頭火だよ寒い
神奈川 堀尾 巌
定住者は飼い殺しの生活を耐え忍ばなくてはならない。そこから離脱した自由とは聞こえがいいが、単独者かつ漂白者には、常ならぬ寒さが待ち構えている。しかし、この一句には、どこか明るさが垣間見られる。寒さが乗り越えられる確信がおぼろげながらも作者にはあるのだろう。
断崖の対馬の冬に着陸する
大阪 熊澤雅夫
韓国と九州の間に位置する対馬は山地の多い島。 古来、 神々を含むさまざまな文物を携えた人々が往来した。季節風強い対馬への飛行機による着陸は、日本文化成立についての厳かな感慨をもたらす。 「着地」を「着陸」に。 「着地」ではスポーツになるし、 「陸」のほうが音が絞まる。
雑詠-西池冬扇・選
福助のつむりは青し寒波来る
愛知 石井雅之
福助人形の剃りたての月代は青い。あの青さは寒波の青さである。この句はふと眼にした福助の頭の青色に、季節感覚を重ねた。一点に絞り込んだ感覚だけを媒介とした取合せである。俳句言語にありがちな「意味の世界」とは無縁な位置に立つので、読者の感覚にまっすぐ飛び込む。
ふはふはの梟のゐる鉄の檻
島根 廣澤幣子
ふわふわの梟、特に幼鳥はその形容にふさわしい。鉄の檻という、対比的な質感の物を配することで生じたイメージが主体。梟はとても象徴性の強い鳥といえる。智慧の神ミネルヴァやアテナ、日本では親不孝の象徴に使われたりする。だが句はただ物だけを表現しているのが心地よい。
冬山の陽のある方へ郵便夫
埼玉 川島 盈
この句は絵画のようなイメージが主眼。冬山といっても中腹に家のある農村風景。特に冬は斜面の方位により、たたずまいは全く異なる。現代生活において郵便屋さんを初め配達業の人々は不可欠である。陽のあたる斜面を登ってゆく郵便屋さんの光景は現代農村の典型的光景でもある。
雑詠-原 和子・選
なれなれしく吾呼び止める寒鵶
大阪 尾家國昭
鴉は八咫烏にはじまり、吉凶の分かる知恵のある鳥として俳句によく登場するが、この句もこの鳥の好き嫌いは別として、只なれなれしいばかりでなく、 「吾呼び止める」まで、積極的に人に近付いてくるところが面白い。きびしい寒気の中でこそ、群れを離れた鴉の孤愁が頷ける一句。
机の上そのままにして去年今年
奈良 宮武孝幸
「去年今年」というと、 〈去年今年貫く棒の如きもの高濱虚子〉の句が想起されるが、先ずはこの句を頭の中から消して詠みたい。去年から今年へ移り変わる一瞬を指す季語であるが、年があらたまるといってとりたてて机上を整理することもなく、淡々とした日常の機微が窺える。
雑炊の味は昭和を遠くせり
愛知 大竹耕司
雑炊は体のあたたまる冬の料理として親しまれているが、具は簡素なものからかなり贅沢なものまで様々。ある年代にとっての雑炊の記憶には、戦中・戦後を踏まえた切実さがあり、 「昭和を遠くせり」に作者の言わん方無しの心情が察せられる。年代と共に歩む俳句のことも考えたい。
雑詠-山田佳乃・選
*鷹匠の拳を鷹のあやまたず
大阪 小畑晴子
古代より猛禽類を使った狩が行われてきた鷹狩は、王、貴族などの支配者層の権威の象徴でもあった。時代とともに廃れ、現在日本で鷹を使った狩ができるのは一人と聞く。鷹とともに生活をし、雪深い山で兎や狐などを狩る。訓練を受けた鷹は必ず鷹匠のもとに戻ってくるという。
目と耳を置いて消えたる雪うさぎ
神奈川 久里枕流
雪の日の戯れに庭先の赤い実を目に、葉を耳にして小さな雪うさぎを作る。玄関先にちょこんと作られた雪うさぎは可愛らしい。そのうち解けていくのであるが、いつのまにか消えてなくなってしまっていた。命をもってどこかへ消えて行ってしまったような不思議な雰囲気が楽しい。
死ぬるまでをんな紅引く近松忌
高知 田村乙女
近松門左衛門といえば『曾根崎心中』などの世話物を思い出させる。男女の情念は今も昔も変わらない。口紅を引くというのは女で在り続けることかもしれない。死ぬまで女で居続けるという気概と近松忌という季題がピタリと嵌って粋な句である。
兼題
選者:大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)
今月の兼題…【高】
兼題-大高霧海・選
脱原発へ舵切るドイツ天高し
兵庫 大曲富士夫
高館や万骨枯れて冬芒
愛媛 境 公二
鵙高音叫びたきこと己にも
鹿児島 川路惠子
兼題-高橋将夫・選
高きより崩れ旅発つ鷹柱
滋賀 遠藤憲司
身じろがぬ高さとなれり凧
愛知 石井雅之
あずかってばかりの高誼日を数ふ
大阪 榎原みどり
兼題-田島和生・選
どんど焼果てたる星の高さかな
神奈川 矢橋航介
十二月八日高きを雲流れ
福岡 白川砂太
こぶし咲き高原列車まつしぐら
千葉 八川信也
兼題-田中陽・選
高く干すシャツ全身が冬
和歌山 吉田貞夫
枯草や高射砲隊陣地跡
沖縄 中島 健
読初に『終戦日記』高見順
福岡 川崎山日子
兼題-中西夕紀・選
高く見ゆ受験の朝の時計台
大阪 菅野 強
高千穂や神の息吹の蕗の薹
神奈川 英 龍子
棚どれも夫の高さよ師走くる
神奈川 松井恭子
兼題-名和未知男・選
登高や役小角の馳せし峰
福岡 田中一とく
寒星や高倉健とおないどし
宮城 阿部恒治
煤逃のスカイツリーの高きまで
埼玉 中村万十郎
兼題-能村研三・選
数へ日の秒針高く刻みけり
熊本 石橋みどり
雁来る列高高と風のみち
愛知 小松 温
仕込み唄洩るる高窓寒造
山形 横道輝久子





2017年| 5月4月3月2月1月
2016年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月| 1月
2015年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2014年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
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