●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,000円

○ 月刊 俳句界 2014年9月号 ○
特  集
再検証 大正俳句の格調
(宮坂静生、小島健、鈴鹿呂仁、正岡明、西池冬扇、大関靖博 他)
特別作品21句競詠
中村和弘、佐藤麻績、松本可南
俳句界NOW
橋本營治
大人のエッセイ
湯川れい子、谷村志穂 他
魅惑の俳人71
森澄雄
【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
俳句ボクシング・今月のチャンピオン【赤コーナー】
万緑のひとつを摘みて笛と成す
京都 北村峰月
俳句ボクシング・今月のチャンピオン【青コーナー】
濁りこそ大地の力植田かな
三重 岡田良子
雑詠
雑詠-有馬朗人・選
羽ばたきの思はぬ近さ明早し
東京  朝賀みどり
朝早く鳥の羽ばたきの大きい音がして、目が覚めたのである。そして窓を見たらばもう明るくなっているのに気付いた。すっかり夏になり夏至も近く、夜が明け易くなったのだとしみじみ思ったのである。鳥の羽ばたきが朝早く聞こえたことから感じとったところが佳い。
朝採りの眉目麗はしき茄子の馬
岐阜  大西誠一
朝採りの新鮮な茄子で馬を作ったのである。一番美しい茄子を選んだので、眉目麗しい馬ができたのであった。「茄子の馬」が眉目麗しいという表現が、明るくて楽しい。盆にこの馬に乗って来る先祖も喜んでくれるであろう。
向かうから魚の覗く箱眼鏡
千葉  塩野谷慎吾
「箱眼鏡」で水中を覗いて魚を探していると、ガラスの向こう側から、魚が不思議そうにこっちを覗きに来るのであった。本来は箱眼鏡で魚を見つけ、簎やすで刺して捕えるのだが、この句の作者は遊び心が強いようである。魚の方もそれを感じて、覗き合っているようなところが楽しい。
雑詠-伊藤通明・選
動かねば手足錆びるぞ蟇
石川  かくち正夫
人をおそれず我が意のままに動く蟇は、姿、容もどことなくユーモラスである。のそりと叢から出て来た「蟇」は、なかなか動こうとしない。まるで置物のように。その様子を見て「手足錆びるぞ」と蟇に呼びかける作者の優しさ、滑稽味も溢れている。
帰省して先ず牛小舎をのぞきけり
北海道 榊原佐千子
家を離れるときまでかわいがっていた子牛が、留守の間にどのくらい大きくなっているだろうかと、帰省の荷も解かず先ず牛小舎をのぞいてみる。大きくなった牛の頭や背を、ポンポンと軽く叩いて声をかけ、やっと家族に挨拶か。牛好きの帰省子の心情が、よく表されている。
雨だれの届かぬ辺り蟻地獄
静岡  渡邉春生
英彦山の奉幣殿で夕立に合い廻廊の下に潜り込んだとき蟻地獄の多さに驚いたことがある。二年近い幼虫生活をおくる蟻地獄は知恵に満ちている。雨等の降り込まない所、人の見つけにくい所等に、擂鉢状の巣をつくり獲物が落ちてくるのを待つ。作者もそれを見て感心されたのだろう。
雑詠-茨木和生・選
西鶴忌扇びらきに札かぞへ
愛知  石井雅之
西鶴忌は陰暦八月十日。井原西鶴と言えば町人の経済生活を描いた町人物を思い浮かべるが、それを現在の社会に移して見れば、銀行員が数える一万円札の場面。「扇びらきに札かぞへ」という表現がじつにリアルで、一句を生き生きとしたものにしている。
呆とゐることも養生つばめ飛ぶ
京都  矢野ゆきえ
健康な状態の場合でもよいし、病後の養生をしている場合でもよい。何も考えずにぼうっとしている時間を持つことが健康を維持し、生命を養うことになるという。勢いよく飛ぶ燕の様子を見ながら、余裕のある時間を持つことがなによりの養生と作者は納得している。
天寿まで晴耕雨読著我の花
福岡  鶴田独狐
人によって天から授けられた寿命は異なるが、この句の作者、健康に恵まれて、晴耕雨読の生活を続けながら卒寿を越えても元気で生きる自信があるのだろう。著我の花は生命力の強い花だから、作者の願いどおり晴耕雨読の暮らしを続けながら天寿を全うされるに違いない。
雑詠-大串章・選
田植ゑ終ふ星の喝采ありにけり
群馬  小暮駿一郎
代搔きの後、やっと田植を終わることができた。夜空を見上げると無数の星が輝き、田の面には数多の星が映っている。満天の星の煌めきを「星の喝采」と言ったところが素晴しい。「喝采」には田植が終わった喜びと、豊かな収穫を願う気持が籠っている。明るく健やかな一句である。
蜃気楼巨船を軽く持ち上ぐる
福岡  麦の穂
「蜃気楼」は地上・海上の物体が空中に浮かんで見えたり、遠方の物体が近くに見えたりする現象である。「海市」とも言われる。そうした自然現象を踏まえて、「巨船を軽く持ち上ぐる」と言ったところが一句の眼目。こうした句を読むと、蜃気楼を是非一度見たいという気持になる。
雪形の形見て村動き出す
三重  平野 透
「雪形」は山腹に残る残雪の形のこと。信州・白馬岳の代搔き馬、爺ヶ岳の種蒔き爺、甲州・農鳥岳の水鳥の形などがよく知られる。その「雪形」を農作業の目安として、種蒔きや、田植の準備をしたのである。そうしたことを踏まえて、「村動き出す」と力強く言ったところが快い。
雑詠-角川春樹・選
孑孒や今もどこかで星生る
神奈川 小藤博之
蚊の幼虫である孑孒と、宇宙で人知れず誕生する新星との取合せが大胆であり、新鮮である。作者は、卑近で微細な孑孒の「いのち」も、宇宙の根源へと繫がっていると感得しているのだろう。
高原のチーズ工房五月来る
大阪  竹中幹子
初夏の清々しさを描くのに、作者は、「高原のチーズ工房」をもってきた。この場所の提示と季語により、高原の風、チーズ工房の臨場感がありありと伝わってくる。
愛用の鍋のでこぼこ麦の秋
徳島  米本知江
麦秋と鍋との取合せが抜群に効いている。日ごろの鍋に対する愛着、手触りが、「でこぼこ」という措辞から伝わってくる。長年にわたり台所を守ってきた自負と、家族への慈愛に溢れている。
雑詠-辻桃子・選
向かうから魚の覗く箱眼鏡
千葉  塩野谷慎吾
「箱眼鏡」で作者は「魚」を捕ろうとしている。息をひそめて水中をうかがっていると、おや、魚のほうから寄って来て、こちらを珍しそうに見ている。そんな「魚」と目が合った作者の、子どものような驚きがよい。
大輪の足場探るや黒揚羽
三重  伊室美枝子
「大輪」の花はダリアか向日葵か。「黒揚羽」がその大輪の花に来て、蜜を吸おうとしている。脚をさかんに動かしているが、それは「足場」を探っているというのである。足場がかたまれば黒揚羽は心ゆくまで蜜を吸うことができるのである。
志野碗に描かれし野や豆御飯
福岡  松村正義
志野焼の茶碗に単純な線で「野」が描かれていて、その茶碗に「豆御飯」を盛ったのである。豆御飯は豌豆を炊きこんだ御飯。簡素に描かれた景が豆御飯の緑と映発し合い、豆御飯をほどよく引き立てているようだ。
雑詠-豊田都峰・選
花の雨小さき土偶に乳ふたつ
神奈川 松井恭子
「土偶」は縄文時代のものだが、「乳ふたつ」は豊かなる実りへの祈りの形である。授かるものの豊かさ、それは生きるための豊かさ。そのようなことに「花の雨」を組み合わせる。これにはやはりものを育てる思いが籠もる。
栗駒の駒形せかす田植かな
茨城  鈴木米征
「駒形」は栗駒山に出来る雪形を言う。その残雪の形からの山の名であろう。その土地の農事暦であり、その形があらわれ「田植」をせかす次第。なにかみちのくのたつきが風土性豊かに描かれている点を評価したい。
怒濤見ておもむろに脱ぐ夏帽子
神奈川 鈴木代志子
始めは一つの風景とみて気楽に浜に立っていたところが、つぎつぎと迫りくる「怒濤」が、なにか自分にむかって迫り来るような力強いものとなりはじめた。それへの備えが「おもむろに脱ぐ」ことになったのである。そんな心のあやをうまく詠っている。
雑詠-西池冬扇・選
どくどくとホース脈打つ夏は来ぬ
千葉  中村わさび
夏の到来への賛歌である。水道栓を全開にしたホースは脈動し、先端から水がほとばしりきらきら光る。そのホースの脈動の力強さに季節を感じたのだ。「どくどく」というオノマトペはありきたりのようであるが、平明で力強さを感じる。この句の趣をしっかりと読者に伝えている。
山椒魚長命顔をしてゐたり
大阪  森田忠夫
山椒魚の存在はそれ自体俳味があり句材として好まれる。この句はその顔が長命顔と断じたことで俳味がさらに増した。しかし長命顔とはどんな顔であったか、よく考えると分からない。山椒魚みたいな顔だよ、といわれると、そうかと納得するがやはり分からない。それでいいのだ。
五枚目の青春切符春惜しむ
埼玉  中村万十郎
青春切符はJRの一日乗り放題の青春18きっぷのことだろう。主に学生の休暇時の利用が対象だ。この句のポイントは五枚目(青春18きっぷは五枚綴り)。春を惜しむ趣と去りゆく青春時代を重ね合わせた若者向けの甘い抒情的な句である。だが、この切符の使用者に年齢制限はない。
雑詠-保坂リエ・選
泣きつぷりやんやと褒めて初節句
愛知  橋本新
「やんやと褒めて」に一瞬虚を衝かれた。俳句の間口は広い。この作品の作者は、その間口を広げる役目をしているのでは、と思う。褒められているのは無論男の子。「泣きつぷり」も十七音の中に解け込み小気味よい。底流に芯の強さと才質のひらめきが見えるのはこの作者の持ち味。
湯上がりの子の逃げ廻る裸かな
福岡  砥上克介
日常の生活がそのまま形をとった家族景。何とも愛らしく逃げ廻る裸の子が見えてくる。嬉嬉と喜ぶ声迄聞こえて来そうだ。作者は「裸の子」の父親であろうか? 年代に拘らず掲句を詠んで懐かしく思い出されることは間違いない。遠い昔に引き摺り込む力のある一句となった。
端居して夕刊来ない日曜日
神奈川 大矢知順子
一日の忙しい仕事から解放されほっと一息ついた作者。端居するともなく端居している。作者の心にゆとりのあるひとときであろう。「あら、今日は日曜日。夕刊は来ないわ」と気付き呟くように成った十七文字。面倒な言葉は使わず欲のない表現が読者に好感を持たせるであろう。
雑詠-宮坂静生・選
安らかに眠れ吉野の蝮捕
東京  川瀬佳穂
およそ吉野と蝮捕は結び付かないが、いわれてみると深山吉野に蝮捕がいるのは自然。しかし、その追悼句とはなかなか着想が大胆でしかも自然。これが俳句の醍醐味。暮しも楽ではなかった。逝った上はもう永遠の自由。齷あく齪せくしないで、お静かに、お静かに。気持が籠もった追悼句だ。
駆け上がる大王崎の夏怒濤
埼玉  曷川 克
灯台の夏怒濤は当たり前に見られる光景であるが、場所が志摩の大王崎とは勇壮だ。先日私も同地に立った。まさに夏怒濤の日。地名が夏怒濤に相応しい。遠州と熊野と灘を二つに分ける先端がこの岬。スケールが大きな句になった。句には緊迫した思いも籠もる。着眼がよかった。
母の日の空の青さよ労働よ
愛媛  井上さち
「労働よ」がすべて。ここがいい。母の日に空が青いのはそれはよかったね、くらいですむが、こんな日でも働くことが一番という素朴な生き方に打たれる。猛烈社員ではない、生きることは働くことと生涯思い続けている母。私の母も私も同じ思い。堅い「労働よ」の響きが清潔だ。
兼題
今月の兼題…【火】
兼題-大高霧海・選
どんど火の闇を産み出す力かな
群馬 小暮駿一郎
蟇プロメテウスの火を守れ
東京 岡田敏彦
遠花火記憶の底の大空襲
埼玉 南卓志
兼題-佐藤麻績・選
山頭火句碑の上這ふ蝸牛
東京 古谷力
朝市の先づは炭火を熾しけり
兵庫 石田玲子
寂しさは野火のひろがる夕かな
岐阜 冨永萬里
兼題-田中陽・選
火の付きし防空壕を捨てし夏
宮崎 萩原郁美
遠花火記憶の底の大空襲
埼玉 南 卓志
雉鳴けば火炎放射がまなうらに
鹿児島 押 勇次
兼題-名和未知男・選
熾火消しお火焚神事果てにけり
岐阜 大西誠一
門火焚く揺れて母来る気配かな
三重 村田郁夫
ゴッホ忌の火の糸杉や夏の空
東京 柴田孤岩
兼題-山下美典・選
狐火を語る男のうす笑ひ
長崎 髙木幸子
大花火恋の火種となる予感
福井 木津和典
煙なきくらしに慣れて門火焚く
静岡 鈴木慶子

2017年| 6月5月4月3月2月1月
2016年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月| 1月
2015年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2014年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2013年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2012年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2011年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2010年| 12月11月10月9月8月7月6月
定期購読のご案内
・毎月25日発売
・A5判
・定価1,200円(税込)
半年間 6,500円(700円お得)
1年間 12,500円(1,900円お得)
2年間 24,000円(4,800円お得)
定期購読は送料サービス

※定期購読割引は、直接小社にお申し込み戴いたお客様に限り、適用されます。その際、ホームページでお知りになった事をお伝えください。

※購読期間中に特別価格号が出た場合、 差額は当社で負担致します

・ご質問やご不明な点がございましたら、フリーダイヤル  0120-819-575、または、お問い合わせフォームからお問い合わせ下さい。