-俳句界 2014年 01月号-


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●A5判  ●定価1,000円



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俳句ボクシング・今月のチャンピオン
俳句ボクシング・今月のチャンピオン【赤コーナー】
月へ行くそんな気がして観覧車
東京 青柳冨美子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン【青コーナー】
緋鯉また跳ねて一瞬河童の掌
長崎 坂口 進
雑詠
雑詠-有馬朗人・選
秋耕に長城の影到りけり
愛媛  境 公二
万里の長城の近くの畑で秋耕が行われている。その耕人に「長城の影」が伸びて行ったのである。長城には二千年以上の歴史がある。耕人はそのような長い歴史には関わりがないと言うように、黙々と耕しているのである。この句はそのような悠然とした雰囲気を佳く描いている。
真冬日の月へ漕ぎ出す紙漉女
愛媛  越智久雄
和紙はコウゾやミツマタなどの植物繊維を原料にする。また植物の皮や根から抽出した粘液も利用する。煮沸した後、臼でつき砕いたり手で打ち叩いた紙料を、水に溶解する水槽に入れる。この槽をすきぶねと言う。これを揺らす作業が月に「漕ぎ出す」ようだと表現したところが良い。
影二つ路地に消え行く風の盆
神奈川 野澤星彦
「風の盆」は人気があり、沢山の句が作られている。踊りの列が路地に消えて行くという句も多い。しかし「影二」つが「路地」に消えたと、二つに限定したところが良い。風の盆らしい恋を思わせるところも面白い。
雑詠-池田澄子・選
花野かなこはさぬやうに母降ろす
京都  北村峰月
親子、夫婦間での介護生活は、今や誰にでも関わりのある大問題。その辛さの細部を描こうとする意欲は自分を冷静に眺めさせる。「こはさぬやうに」は、悲しくも優しく美しい。その場所は秋の草花の淡く咲く処。作者の心も、このことで毀(こわ)れない。
指の力抜きて白桃剥く夕べ
埼玉  岸てる子
あぁ本当だ、と思いつかされる。桃はもっとも傷つきやすい果物。美しく匂いよく、皮はしっかりしていながら、傷みはすぐに果肉に至る。指に力を入れては果肉が傷む。この作者はきっと桃が大好き。美しく剥いた桃は、美しく皿に盛られる。「指の力抜きて」は、桃への愛だ。
桃狩りの桃という字をもも色に
北海道  中 悦子
蜜柑狩り、梨狩り、葡萄狩りは経験があるが、「桃狩り」もあるのか。若い女性が「まぁ、オイシソー」などと騒ぐ光景が似合いそう。例えば矢印を書き込んだ簡単な看板というか道しるべの、「桃という字をもも色に」書いたのは誰? 具象の伝達力は強いです。
雑詠-伊藤通明・選
富士山の消印大き夏見舞
山形  鈴木禧實
今年世界遺産に認定され、誰もが一度は登りたいと願っている「富士山」からの消印つきの「夏見舞」。異常に暑かった今年、葉書に押されたスタンプが、どんなに大きく涼しく見えたことだろう。嬉しい嬉しい暑中見舞。その葉書を一度拝見したいものである。
新涼の釣果をさばく肥後守
東京  川俣美子
「新涼の釣果」というと、大物ではないかと思うが、それを捌くのが「肥後守」という落差が面白い。岸壁に並んで釣り上げた鯊か小鰺などの小魚を、よく研いだ「肥後守」で手早く捌く。作者は今はやりの釣女か。しかし肥後守を知っている年代は、昭和三十年代以前というが……。
仏壇の半分占める大き梨
神奈川 安室敏江
頂きものか買われたものか子供の頭より大きいジャンボナシが、でんと「仏壇」の半分を占めている。初物であろう瑞々しい大梨を、まず仏前にとお供えされる温かさ、優しさが浮かぶ。おろして頂いたら美味しいこと間違いなし。中七の「半分占める」という措辞がいきている。
雑詠-茨木和生・選
花野にて会ひたる人と花野ゆく
三重  池田緑人
「花野」で会った人は知人でない方がよい。吾亦紅の花を見ていると声をかけられたのかも知れない。どんな話をして、一緒に花野を行くことになったのかは何も語られていないが、それだけに読み手が想像する楽しさがある。「花野」の花の話が尽きなかったに違いない。
小鳥来る行基葺なる大寺に
奈良  渡辺政子
「行基葺」の寺の屋根が見られるところといえば、南都七大寺の一つ元興寺極楽坊である。境内は整理が行き届いていて、寺の上に広がる奈良の空は美しい。秋になって、もろもろの小鳥が木々の多い奈良にやって来るが、この元興寺にも小鳥がやってくる。
稔り田や他県から来て作るとふ
岐阜  三田村広隆
「稔り田」にいて、稲刈りの準備を始めているのかも知れない。これまで放置されていた田だったと記憶していたが、尋ねてみると隣の県からここに通ってきて稲を作っているという。そういえば最近放置された田や畑を借り受けて耕作している人が増えている。
雑詠-大串章・選
妻を恋ふ万葉歌碑や法師蝉
福岡  赤坂紅未子
同時投稿の句に〈万葉の碑に香をこぼし葛の花〉があった。いずれも万葉の歌碑を訪ねての作である。「万葉集」には恋人や妻を恋う歌が多いが、九州の歌というと、例の「梅花の歌三十二首」に出てくる〈春なればうべも咲きたる梅の花君を思ふと夜寐も寝なくに〉を思い出す。
椎の木に樫の木傾ぐ星月夜
千葉  井上映子
椎の大木に寄り添うように樫の木が傾いでいる。空には星の光が月のようにかがやいている。大自然が織り成す見事な光景である。二つの大木の下には、団栗と椎の実が入り交じって転がっているかも知れない。そして、周りの草叢では虫たちが盛んに鳴いているかも知れない。
古墳へと稲田の風の吹き上がる
神奈川 長浜よしこ
「稲田」の中に「古墳」が立っている。円墳か方墳か、はたまた前方後円墳か、いずれにしても古墳は日本の来し方を感じさせる。稲穂を揺らして走って来た風が、古墳の木の葉を揺るがせ、草原を靡かせる。「古墳」と「稲田」の取合せが、農業国日本の歴史と光景を彷彿とさせる。
雑詠-角川春樹・選
敗戦日シャワーを熱くしてゐたり
神奈川  松井恭子
「敗戦日」と「シャワー」の取り合わせから、作中の人物が想像される。たとえば、部活動やスポーツを終えたあとに、汗を流している景である。「シャワーを熱く」という措辞から、青春性が感じられ、戦災で命を落とした若者たちへの思いが導かれる。
小鳥来るテラスに白き椅子二つ
神奈川  山口望寸
秋の色彩感といえば、素秋といわれるように、清澄な風を思い浮かべる。大気が澄み、どこまでも高くなってゆく秋空のもとにいる作者の現在地が、「白き椅子」に表れている。「小鳥来る」という季語により、内省と外向の間にいる作者の心象が見えてくる。
いなびかり水に浸けある皿小鉢
神奈川  山口紹子
「いなびかり」を配合することで、台所のシンクに沈めてある「皿小鉢」の絵模様が浮かびあがってくる。稲に稔りをもたらす稲妻と、皿小鉢という作者の生活を結びつけることで、映像の復元力と作者の自己投影のある作品となった。
雑詠-辻桃子・選
鶺鴒の飛ぶよりかろき走りかな
東京  岩見陸二
河原や湖の岸辺を「鶺鴒(せきれい)」が軽快なフットワークで走っているのをよく見かける。この走りを、「飛ぶよりかろき」とは言い得て妙。そういえば、飛ぶときの鶺鴒は、羽ばたいては止め、落ちかかっては羽ばたきというように、陸を走るときとは対照的な飛び方をしている。よく見た。
花野にて会ひたる人と花野ゆく
三重  池田緑人
「花野」に来て、咲き乱れる秋草の野趣のある風情に魅せられていると、同じような「花野」の客と、ふとしたことで話したり話しかけられたりするようになった。おのずと打ち解けて別れがたく、そのまま連れ立って「花野」の径を歩いた。物語の一シーンのような味わいがある。
踊り子に仕舞ひ太鼓のひと叩き
愛知  小松 温
にぎやかな盆踊りもいつかは終わる。その日の踊りの終わりを告げる仕舞太鼓が、櫓のまわりを踊っている「踊り子」たちに向かってどどんと叩かれた。「仕舞ひ太鼓」を聞いて「踊り子」たちは三々五々家に帰ってゆく。威勢のよさと踊りのあとの寂しさが同時に伝わってくる句だ。
雑詠-豊田都峰・選
水分や上の田すでに秋の色
福岡  山際はるか
「水分」の据え方がよい。水配りの意味という。田にとっては水の配分は必要であるが、句の場合はたいへんうまく水が行き渡っている感じがする。やがて下の棚田まで「秋の色」になってゆくことであろう。「水分」は神として祭られてもいる。
水昏れて精霊舟に火が入りぬ
静岡  加藤風香
上五の「水昏れて」がまず情況を述べる。すなわち精霊の行方を気にするわけである。その答えが「火が入りぬ」となる。冥い世界のことである。その象徴が「水昏れて」であり、それへの思い入れが「火」、すなわち明るさである。
素焼皿木の葉に変り小鳥来る
埼玉  関田独鈷
上中の描写は、焼き物の製作と考えてもよいし、卓上の木の葉形の皿と考えてもよい。いずれにしても「木の葉」を真ん中に据える風景。それは渡り鳥を待つ心象である。卓上の木の葉の傍らに小鳥が来ている風景は楽しい。
雑詠-宮坂静生・選
戦争に負けて日本の蚤取粉
大分  下司正昭
戦争に負けて、終戦後蚤が大発生。どこの家も蚤取粉塗れ。寝る前には布団に散布して寝た。蚤も虱も身近だった。昭和三十年代に洗濯機・電気釜・テレビの世の中になり、江戸時代以来の暮しががらりと変わると同時に、蚤も虱も姿を消した。作者は敗戦と蚤取粉とが印象深い世代。
天井をすべて占領干し煙草
東京  梅村芳恵
煙草栽培は農家の煙草収穫期には、家中に綱を巡らして葉煙草を吊るす。天井はどこも葉煙草ばかり。乾燥するまでしばらく人はその下で休む。生産者は生きていくのに必死。今でもこんな状景はあるであろうが、父母の働く姿を見て、子供は大いに何かを悟るのだった。
二百十日返却口へ本落す
福岡  麦の穂
たまたま二百十日は図書館が休館であったか。あるいは台風来襲のため臨時に休館になったものか。返却口からポトンと本を落とした。その音を聞いてちょっと安心。返却日が「二百十日」であったのが軽いおかしみがある。農家では稲や果樹に被害がでないよう風除けに気を使う日。
雑詠-山本洋子・選
野分去り大きな空を残したる
静岡  渡邉春生
野分が夜もすがら吹き荒れ、辺りの塵も何もかも吹き浚っていった後、広く大きい空が残っているばかり。残りたる、ではなく「残したる」が生きている。主語は野分ではなく宇宙の造物主。宇宙をつかさどる造化の神がこの大空を残したと受け取ると、いよいよ句柄が大きくなる。
中秋の月と湯に入る山の宿
福岡  本郷実津子
山懐の出湯に泊まる。おそらく露天風呂であろう。おりから中秋、中天にのぼった月が出湯を照らす。ああなんという幸せ。「中秋の月と」の「と」が月との一体感をかもしだしていて、山の湯の情景をありありと目にうかばせる。
藁塚は父のにほひよ倚りかかる
福岡  はりま恋
藁塚は、日をあびてどっしりと田の真ん中にすわっている。滲み出るような、懐かしく優しい匂い、触れるとあたたかいその藁塚におもわず倚りかかる。父がそこにいるような実感がある。
兼題
今月の兼題…【原】
兼題-大高霧海・選
銃口の原野猟犬突進す
福島 戸田英一
原罪を芯に秘めたる林檎の蜜
茨城 羽鳥つねを
原発の安全神話蚯蚓鳴く
京都 原田洋子
兼題-佐藤麻績・選
海原にアサギマダラの渡りかな
千葉 露木伸作
玫瑰や海原遥か羅臼岳
神奈川 磯村昌子
富士立てり三保の松原従えて
大阪 毛利美子
兼題-田中陽・選
葛原に溺れ満蒙開拓碑
石川 かくち正夫
「原告」も「被告」も知らず老の秋
神奈川 山口望寸
芒原君の唇奪ひけり
三重 池田緑人
兼題-名和未知男・選
はらいそへ秋の虹かけ原城址
愛媛 境 公二
月のひとひとり去りゆく芒原
神奈川 松井恭子
山頭火来さうな風の芒原
兵庫 森山久代
兼題-山下美典・選
真葛原水源湧くを探しあて
神奈川 木村かず子
海原の丸みはなれむ初日の出
兵庫 山口静枝
身にしむや人智及ばぬ原子力
埼玉 田村みどり

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