-俳句界 2013年 12月号-


●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,000円



月刊『俳句界』を試し読みできます。
【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
俳句ボクシング・今月のチャンピオン【赤コーナー】
ラムネ玉抜きて話は昭和へと
埼玉 橋本遊行
俳句ボクシング・今月のチャンピオン【青コーナー】
向日葵がだんだん怖い男の児
神奈川 神野志季三江
雑詠
雑詠-有馬朗人・選
竿燈の歪みなをせる力あり
神奈川 矢崎 昌
秋田の竿燈祭は楽しい。見事な芸である。時々竿燈が倒れそうになる。それを実にタイミングよく立て直す。はらはらしているとき、さっとまた立ち上がるのを見ると、すごい力であると感心する。それはまさに力である。その様子を過不足なくよく描写している。
直前の闇深深と大文字
兵庫  塩谷忠正
旧暦七月十六日、現在は八月十六日の夜、京都の如意ヶ嶽や衣笠山に、大の字の形の篝火が焚かれる。他の山々でも大文字の形の火を見ることがある。この句は大文字の火がつく直前の緊張した雰囲気をよく描いている。直前の深い闇に着目したところが良い。
地球儀の埃を拭きぬ原爆忌
長崎  青木のり子
広島、長崎への原子爆弾投下は人類にとって誠に不幸なことであった。日本の敗戦が明々白々になった時点で、何故原爆を落とし、無辜の人々、非戦闘員を極めて多数殺戮したのか。それは人類史上最大の汚点の一つである。まさに地球上の汚れ、原爆忌にはその埃を拭わねばならない。
雑詠-池田澄子・選
体験のヨットにどんと救命具
愛知  多村昇天
ヨットに乗せてもらったらしい。単にひとつの体験として。天気もよさそう。楽しみで心弾んでいる。ところが、「救命具」があったか運ばれてきたか。「どんと」は、その印象の強さを思わせる。そうだ遭難もなくはないのだ。いや、あるかもしれないぞ。と気付いたその緊張と微苦笑。
折鶴の犇いてゐる暑さかな
滋賀  井上美代子
「暑さかな」がなければ、病院のどこかに吊られた千羽鶴を思うかもしれない。いま病院は冷暖房が整っているから暑くはない。ならば原爆忌。あの折鶴。犇いている。色褪せたり真新しかったりのあの折鶴。だからどう思った、という心情を語らない我慢が、強烈に思いを発している。
夕べ見し月の形に日の出かな
三重  坂倉一光
あぁそう言えば、と驚いた。月の出の月は低い処にとても大きい。低い処のものは大きく見えるらしい。その大きさで日が昇る。日の出はあまり見る機会がないが、そうだろうなと気づかされた。
雑詠-伊藤通明・選
うぶすなの下ぶくれなる茅の輪かな
愛知  山口 桃
夏祭の用意に男達が集って茅の輪を作っている。一年振りの慣れない仕事で形が歪になる。出来上った重い青茅の輪を鳥居に結ぶとき、どうしても重い方が下になってしまう。その茅の輪を「下ぶくれ」と、人の顔になぞらえて見守る作者の優しさと、産土に対する懐かしさが伺われる。
兼題の「雨乞」百句驟雨くる
神奈川 磯村昌子
何人かが集っての句会のとき、今年は雨が少ないからと「雨乞」という兼題が決まる。それぞれが願いをこめて百句を仕上げたとき、その願いが届いたかのように突然の驟雨。句は何もいっていないが、皆歓声を上げ窓から手を出したりして喜んでいる、その様子が目に浮かんでくる。
水打ちて子供神輿を待ちにけり
東京  貝 啓
我が子が参加している子供神輿の「ワッショイ、ワッショイ」の声が遠くから聞こえてくる。土埃を沈める水を打って、折角の祭衣裳の子供達が担いでくる神輿を心から楽しんで待っている親心が「水打ちて」によく表れている。
雑詠-茨木和生・選
洗礼名長き草田男忌なりけり
神奈川 小原紀香
中村草田男は亡くなる前夜に洗礼を受けている。洗礼名はヨハネ・マリア・ヴィアンネ・中村清一郎。聞きなれない者にとっては、長いといえば長い洗礼名である。中村草田男の忌日だと思って思い遣ったのがこの洗礼名だったのがよい。
新盆や部屋も遺品もそのままに
東京  竹内柳影
亡くなった方の初めて迎える盆会が新盆である。この日のために、死者の使っていた書斎も机や椅子、硯や筆などと思い出につながる遺品も生前通りのままに残されている。残された者にとってはこうして新盆を迎えるのが死者への礼だったのである。
暑き秋噴煙五千メートルも
鹿児島 是枝南草
この初秋の桜島の噴火の様子はテレビを通じて、いまも記憶に鮮明である。五千メートルの高さにまで噴煙が上がるのは、噴火に慣れている鹿児島市の人にとっても久しぶりのことで驚かれたに違いない。今年の残暑の厳しさがこの噴火を呼んだのかと思っても不思議ではない。
雑詠-大串章・選
水打ちて子供神輿を待ちにけり
東京  貝 啓
間もなく子供神輿がやって来る。家の前に水を打って今や遅しと待ち受ける。やがて子供たちの元気な声が聞こえてくる。小さいながら捻り鉢巻をし、揃いの印半纏を着て楽しそうだ。水を打って待つところに愛情が感じられる。こうして地域の伝統行事は引き継がれてゆく。
幼子と宇宙語れりハンモック
長崎  田上喜和
ハンモックに揺れながら幼子と宇宙のことを話している。その上には大空が広々とひろがっている。幼子はいつ勉強したのか、宇宙のことをよく知っている。話は銀河団や月食の仕組みにも及び、やがて宇宙旅行の話になっていく。夢と希望を感じさせる楽しい句である。
鳥帰るいつか独りになりてゐし
富山  的池 遙
渡り鳥が北へ帰るのを見ながら、いつの間にか独り残されていることに気づく。同時作の〈夏の月語り足らざる吾を残し〉〈突然の死をうべなへず初桔梗〉を読むと、悲しみが一層心にしみる。今はただ作者の健康を祈るのみである。亡くなられた方もそのことを願っておられるに違いない。
雑詠-角川春樹・選
夏の海を横抱きにして帰る父
大阪  清島久門
豪快な父親像が想起される、大柄な作品である。掲句からは、サーフボードを横抱きにする海の男も連想される。なによりも、海そのものを横抱きにしているという措辞が、父親の存在、生命の大きさを捉えている。
機関車を母と見に行く枯野中
東京  梅村芳恵
中七の「母と見に行く」という措辞が切ない。そこからは、父親の不在が読者に語られている。また、掲句の機関車は、郷愁と父性の象徴として、母子の心象の枯野に置かれている。
深呼吸して八月の空を見る
埼玉  波切虹洋
日本人にとって、八月はとりわけ意味を持つ月間であろう。言うまでもなく、原爆忌と敗戦忌という記憶である。戦後の平和を愛おしむ作者の感慨が、もっとも平明な表現として結実している。
雑詠-辻桃子・選
ざら紙に白泉の句や敗戦忌
埼玉  新井圭三
渡邊白泉の著名な句に〈憲兵の前で滑つてころんぢやつた〉〈戦争が廊下の奥に立つてゐた〉など、戦争の時代を批判的に詠んだ句がある。ざら紙に書かれた白泉の句とはこのような句であろう。ざら紙の質感と敗戦忌の取り合わせに、作者の批評の目が感じられる。
地蔵会や駒留のある嵯峨の路
大阪  北山日路地
「駒留」は、『平家物語』で高倉院と小督の局にまつわる「駒留の橋」のこと。寵愛する小督に去られた院は仲国に御馬を与え、仲国は嵯峨に隠れ住む小督を捜し当てる。「彼の仲国が駒をとめたる処とて、駒留の橋と云」と松尾芭蕉の『嵯峨日記』にある。地蔵会の折、作者は駒留の橋のあたりを通り、小督の悲話や芭蕉を偲んだ。
木槿咲き男所帯の物干して
神奈川 小原紀香
男だけで女のいない所帯であるが、大学や会社の男子寮なども男所帯というだろう。いずれにせよ殺風景な感じは否めない。ベランダに干されている物も、見るからに男所帯と思わせるものだった。あたりには木槿が花をつけている。男所帯と花期の長い木槿との取り合わせが面白い。
雑詠-豊田都峰・選
投げ釣りのどこへ投げても鰯雲
埼玉  田坂泰宏
たいへん具体的に述べているし、またそれが基点にもなるので、「鰯雲」の全天的なひろがりが、竿の動きによって、実感される。俳句は観念的よりは、ぜひ具体的に実感を表現し、それに自分の思いを込めるのがいちばんふさわしい。
ひるがほや流人の島の舫ひ杭
福岡  山際はるか
流人の島ゆえ、船着き場は厳重に管理されているはず。その視野の中の「舫ひ杭」。流刑者を運んで来た船、許されての迎えの船なども繋がれたはず。一つの物にいろいろな思いを託して、悲喜こもごもに語っている。
夕焼や背中合せの駅の椅子
愛媛  堀本芳子
プラットホームという舞台は人間ドラマになかなかふさわしい場所であるが、「背中合せの椅子」を置いたことはたいへんよい。実際人間関係はこれによく似たもの。そして、「夕焼」に包み込んだのがいっそう効果を上げている。
雑詠-宮坂静生・選
現世の闇をさ迷ふなめくぢら
島根  大島一二三
「なめくぢら」はなめくじ。その生き方をこの世の闇を彷徨っているものとみた。一つの見方である。明快な目標があってそれを目指して歩んでいるとは見えない。意志があるようには思われない。人間の生き方からの推測なので、なめくじにすればいらぬお世話だと笑いとばすかも。
一生に一度抜けたる蝉 の穴
神奈川 尾崎秋明
蝉が穴から生まれ出るのは一度。蛇のようにまた冬眠というわけにはいかない。それが定めであるが、地中に七年、地上に一週間足らずとはなんとも切ない。人間の寿命も考えれば同じようなもの。二度と同じことの繰り返しはない。蝉の姿をみていつも考えているのは自分のこと。
一樹より起つて全山蝉 となる
和歌山 吉田貞夫
目の前の大木から蝉が鳴き出した。と、気がついたら、全山から湧き立つように蝉の声がする。改めて意識すると、自然界の不思議さに驚くばかり。人間は自分中心に生きているので、無心にならないと、外界の様子はわからない。どこか禅問答風な味わいがある句である。
雑詠-山本洋子・選
撥釣瓶はねる音聞く帰省かな
大阪  小畑晴子
故郷に帰ると、風の音も鳥の声も懐かしい。なかでも屋敷の裏のあの撥釣瓶をからから鳴らして汲む音こそ、懐かしさの原点のような気がする。ああ、懐かしい、心安らぐ音。音に焦点を絞ったことで、しみじみとした情感を巧みにかもしだしている。「撥釣瓶」が躍動的で説得力がある。
訪へばすぐ簾うごいて母の顔
茨城  野口英二
「今日は」声をかけて母をおとずれる。母が直ぐさま簾の影から顔を出してくれる。簾の影に母がかならず居る、という幸せな気分。「簾うごいて」は、その幸せな気分が具体的に、素直に表現されている。
百合の花灯を消してより匂ひけり
奈良  佐藤文俊
百合の花は、強い匂いがある。でも部屋の灯火を消すと、一入にその香りを濃く放ち、存在をあらわにするのだ。作者は、百合の花の、楚々と佇みながら、芯の強い風情を愛するのだろう。
兼題
今月の兼題…【西】
兼題-大高霧海・選
原爆忌西の十万億土燃ゆ
愛媛 境 公二
曼珠沙華この先西方浄土かな
東京 曽根新五郎
これがあの西方浄土大花野
神奈川 宮島流星
兼題-佐藤麻績・選
サヨナラの打球西日へ放物線
茨城 高橋弘光
燕去ぬ西海へ向く蒙古塚
福岡 洞庭かつら
蝉しぐれ西郷隆盛終焉地
福岡 田中一とく
兼題-田中陽・選
老農のガンマンのごと立つ西日
佐賀 萩原豊彦
西日濃き病窓生きようと思う
埼玉 西㟢久男
喇叭手の釣瓶落しの西に吹く
神奈川 松永きよ子
兼題-名和未知男・選
西域に消えしみづうみ月今宵
東京 朝賀みどり
ラ・フランス今も苦手な西洋史
神奈川 安田直子
西日濃き病窓生きようと思う
埼玉 西㟢久男
兼題-山下美典・選
西安に眠る仲磨呂秋の月
岡山 小路広史
西海の島に異人の墓灼くる
東京 坂さつき
同棲の記憶西日の焼く畳
神奈川 神野志季三江

2017年| 11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2016年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月| 1月
2015年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2014年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2013年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2012年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2011年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2010年| 12月11月10月9月8月7月6月
定期購読のご案内
・毎月25日発売
・A5判
・定価1,200円(税込)
半年間 6,500円(700円お得)
1年間 12,500円(1,900円お得)
2年間 24,000円(4,800円お得)
定期購読は送料サービス

※定期購読割引は、直接小社にお申し込み戴いたお客様に限り、適用されます。その際、ホームページでお知りになった事をお伝えください。

※購読期間中に特別価格号が出た場合、 差額は当社で負担致します

・ご質問やご不明な点がございましたら、フリーダイヤル  0120-819-575、または、お問い合わせフォームからお問い合わせ下さい。